輪廻を駆ける(25:勝輝の選択)

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25:勝輝の選択

仙人は病院を出ると何も言わずに歩き始めた。

「ご先祖様、これからどこに行くんですか?」勝輝は尋ねた。「すぐそこのレストランじゃな」病院から出たすぐのところにオシャレなレストランがあった。レストランの中は綺麗に飾られていて落ち着いた雰囲気だった。

仙人と勝男を抱いたままのジー、そして勝輝は1番奥にあるテーブルの席に腰掛けた。

「これからわしらはあの世へ帰る」「うん、なんとなくそうだとは思っていたよ」仙人の対面から勝輝は答えた。「俺はもうちょっと勝輝と旅して回ってもよかったけどなー。ま、あの世で旅行にでも行こうぜ。勝男がこんなに小さくちゃバイクに乗れねーもんな」勝輝の隣に座っていたジーは相変わらず楽観的でいつも頼もしい。

「それは叶わん」「ん?なんでー?」「今回連れて行けるのは勝治と勝男だけじゃ。勝輝はまだあの世に行く予定じゃなかった。全員で帰ることはできんのじゃ」仙人は淡々と説明を始めた。

「勝輝、お前はどうしたい?」仙人は優しく尋ねた。

「俺はジーちゃんとバイクで旅するもんだと思っていたよ。それにみんなで帰るのかなぁって思っていたから、急に俺だけ帰れないって言われても困っちゃうな」

「そうだよ、ご先祖さん、勝輝だけ置き去りじゃまた彷徨う幽霊じゃーん」ジーもクレームを言った。まぁまぁ待てと言うように仙人はジーの言葉を手で遮った。

「もう一回元の世界に生まれ変われるとしたら?」

仙人の質問に勝輝は驚いた。もう一回生まれ変わるなんて話は聞いたことがない。

「ご先祖様、そんなことできるんですか?そりゃあ俺は元々全然死んだ気がしていないし生まれ変われるのなら生まれ変わりたいです。今だってまだ死んだことを半分信じきれないでいるし、1人ぼっちの幽霊になるのは嫌です」

「俺も生まれ変わりてーよ。そーだ、ご先祖さん、みんなで生まれ変わっちゃおうぜー!」ジーは仙人に楽しげに提案した。本当にこの人は死んでいるとは思えないほど明るい。

「勝治、実はお前もかつて生まれ変わらせる計画があったんじゃ。予定なく死んだ者は生まれ変わることができる。例えばお前達のように事故で死んでしまう者、あるいは誰かに殺されてしまった者。はたまた若くして病気で死んでしまった者。そういう人間はなんというか…そうじゃな…。魂のチカラを使い切る前に肉体と分離してしまったと考えた方がいいかもしれん。死んだ実感が無いことも重要かもしれん。わしは勝治を生まれ変わらせようとした。」

「しかし勝治は生まれ変わったとしても戦争が始まってすぐにまた死んでしまうルートに進みそうじゃった。それではあまりに不憫じゃ。わしはそれなら彷徨ったまま、天に送る手伝いをしてもらった方がいいと考えたんじゃ。何せ勝治の場合は死んでいても未練がないというか、楽しくわしの使いを手伝ってくれそうじゃったからの。」

「勝治はコッチの時間があまりにも長いのでもう生まれ変わりはできん。生まれ変わるのは死んでからしばらくのうち、10年以内がいいところじゃろう。勝男は魂も肉体も真っ当に使い切ったので正当ルートであの世行きじゃ」

「俺はまだあの世に行くタイミングじゃないとして、ジーちゃんや勝男爺ちゃんはあの世に行った場合はどうなるの?」勝輝は尋ねた。

「あの世はこの世みたいなもんじゃ。わはは。ちゃんと死んでみてからのお楽しみじゃ」仙人の言うことはよくわからなかったが、この世とあの世があって、あの世に行くにはちゃんと死ななくちゃいけないのだろう。それなら自分もジーのように1人旅を続けるか、生まれ変わるか…。いずれにせよ大変そうだ。

「ご先祖様、ジーちゃん、俺まだ死ぬつもりなんてなかったんだ。普通に歳をとって、大学を卒業して、就職して、結婚して…。そうなっていくって思ってた。彼女作ってデートしたり、友達とバイクでツーリングしたり。そんな当たり前の日常を過ごす気満々だったよ。だから…。」

「生まれ変われるなら生まれ変わりたい」

勝輝は生まれ変わることを望んだ。

「じゃ決まりだな。ご先祖さん、勝輝を生まれ変わらせてやってくれよ」「うむ、そうなると思ってこのレストランにしてあるんじゃよ」仙人は隣のテーブルに座る新婚夫婦をチラリと見た。食事をしながら楽しげに過ごしている。奥さんのほうは妊娠しているようだった。

「生まれ変わるのは簡単なんじゃ。勝輝、今度は全うするんじゃぞ」そう言うと仙人は勝輝の手を引っ張って、隣の席の妊婦のお腹に勝輝の手のひらを押し当てた。「この人がお前のお母さんになる人じゃ。幸せにしてやりなさい」仙人はニコっと微笑んだ。

「って言われてもどうすりゃいいのかわかんないですよ!」勝輝は妊婦のお腹に手を当てたまま仙人に聞いた。

「頭からお腹の中に入ればいいだけじゃ」勝輝は躊躇した。いきなり妊婦さんのお腹の中に入れって言われてもできない。するとジーが横から勝輝にタックルをかました。「どりゃ!行ってこいやーー!わっはっはっは!」

勝輝はバランスを崩して顔面から妊婦のお腹の中にすぅーーっと吸い込まれていった。「もう一回やり直してこーい!元気でなー!!」勝輝は挨拶する間もなくジーのタックルでお腹の中に押し込まれてしまった。

仙人はジーの強引なやり方に驚いたが、泣き惜しんで別れるようなものでもないと思っていたのでかえって良かったかもしれないと考えた。

「さて、わしらは天に上がるぞ。勝治、お前はしばらく勝男と遊んでやれ。澄(すみ)も待っておる」あの世でジーと勝男を待っているのはジーの妻の澄だ。「あぁ、早く澄に会いてぇんだ。お守り作ってくれたのに死んじまったからな…」眠った勝男を抱っこしたジーと仙人は幸せそうな夫婦を見つめながら天へと上がっていった。

勝輝は水の中にいた。

うっすらとしか開かない瞼を水中でそっと開くと小さく握りしめた赤ん坊の両手と天井に繋がるチューブ状の何かが見えた。赤ん坊の両手は自分の手、チューブはへその緒だと、すぐに理解した。

ついさっきまでみんなでレストランにいたのに、気づけば俺は赤ちゃんになっていた。暖かくて気持ちいいから少しゆっくり休もう。今日は色々あって疲れた。勝輝は母親のお腹の中で幸せな気持ちで眠りについた。

完結しています。全26章あります。

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