輪廻を駆ける(16:あの世への送り方)

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16:あの世への送り方

ジーはその日の晩、胸ポケットからスキットルを取り出すと勝輝にウィスキーを薦めた。「ちょっとは飲めるんだろ?」そう言われた勝輝はバイクにくくりつけてあったポシェットから同じようにスキットルを取り出して持ってきた。「俺ら似たもん同士だ。ははは」生意気にも勝輝のスキットルの中身はウィスキーだった。

焚き火を眺めながらウィスキーを飲んだ。しばらく火を育てるように弄っていると、そのうちにジーが話し始めた。

「俺は理由があってココにいるんだよ。成仏だか何だかは置いておいて、みんながいるところにはまだ行けていない。カツキ、死んだとき覚えてる?」「うん、一瞬で死んでたけど、よく覚えてるよ。俺トラックに激突されて…」勝輝は死んだことを思い出すと辛くなってきて黙ってしまった。

「そのときさぁ、あの世に行かなかったろ?」「あの世?そんなところには行ってない。気を失って記憶もなくて、普通に家で目覚めただけだったよ」「本当はあの世に行くんだってよ、みんな。でも俺達みたいに死ぬ予定じゃなかった人間が急に死んでしまうとあの世に行かずに、そのままの世界で過ごすことになっちゃうみたいなんだ」ジーは不思議な話を始めた。ただその口調からは何でも知ってるワケではなさそうだった。

勝輝はジーの目を見て真剣に聞いた。この話しがデタラメではないことは分かる。

「俺の場合は死んだあと家に帰ってしばらく普通に過ごしてたんだ。自分が死んだことに気づいたのは死んでからしばらく経ったあとだったんだ」ジーは焚き火を眺めながら続けた。

「死んだことに気がついてからは何もできない自分に苛立っていたけど、あるとき急に1人の仙人みたいな人が家に来て俺に話しかけてきたんだ。マジでビビったよ、誰にも声が届かないのに急に向こうから話しかけてくるんだから。」

「で、何しに来たのか聞いたら俺のことを迎えに来たっつーワケ。俺のご先祖さんだって言うんだけど、頼みごとがあるからまだコッチに残れって言うんだよ」「死んだ人に頼みごとなんておかしな話しだね」「おーん、最初は俺も信じなかった。でもご先祖さんが何度もウチにやってくるうちに仲良くなって、それで頼みごとを聞いてやることにしたんだ」「それってどんな頼みごとだったの?」

「ご先祖さんは迎えに行く人が何人かいて、順番に連れて行ってるからお前はまだ順番じゃないと。俺は後回しだ、と。ちゃんと時が来たら迎えにくるからそれまでの間、他の人達をあの世に送る手伝いをしろって言うんだ。だけど最初は何していいのかわかんなくてさー」ジーにもいろいろあった様子だった。それも当たり前である。死んでしまったのにまだこんなところで旅を続けてるのだから。

ジーは落ち着いた様子で話を続けた。「ところがあるときあの世に送る方法がわかったのさ」「え?ジーちゃん凄いね。どうやってあの世に送るの?」「送るっていうか、なんて言うか…。旅の途中でなんだけど、1人のおっさんが電柱の前に体育座りで座り込んでたのよ。しかも花束も置いてあって、スマホを見ながら泣いてたのよ。うわー、なんか絶対意味ありげだなぁと思って一応声をかけてみた。そうしたら案の定、勝輝と同じように普通に話ができたんだよね。」

「で、なんで泣いているのか聞いたら、自分がなんでココにいて、なんでこの場所から動けないのかもわからないって言うんだよ。スマホで色々調べてたみたいなんだけどわからないし、誰にも連絡がつかないと」

勝輝は一瞬で悟った。「それって亡くなった人ってことだよね?」「そうなんだよ。俺はおっさんに〝一旦落ち着け〟ってなだめて、おっさんに死んでることを伝えたんだ。俺ビックリしたんだけどこのシチュエーションでおっさん気がついて無いワケ!自分が死んでることに!なんで花束があるかわかるか?って聞いても、〝わからない〟って言うし」

ジーは両手でお手上げのジェスチャーをしながら続けた。「それからは、ちゃんと見れば見えるしちゃんと聞けば聞こえるよってことと、俺も死んだ人なんだよってことを優しく話して教えてた。そうこうしてたらおっさんが〝遠くから花束を持ってくる人が見える〟って言い出した。その人が俺たちの目の前まで来たときわかったんだ。 その女の人がボロボロの花束と新品の花束を交換しにきたんだ。その人はおっさんの恋人だったんだよ。それを2人で見てたらおっさんもようやく納得したらしい。〝死んでしまったのなら仕方のないことです、ありがとうございます〟って、おっさんは俺にお礼をいって頭を下げたんだ。そうしたらおっさんの体がほんのり薄くなって宙に浮き出した…」「宙に浮いた!?」

勝輝は自分の時と同じことに気づきジーを急かすように続きを聞いた。「そのあとは!?」

「そのあと俺は〝元気でな〟って声をかけたんだけど、おっさんは空高くずっと上にあがっていって見えなくなった。それを見て俺も納得したんだよね。あー、死ぬとこうなるのね、って。みんなこうやってあの世に行くんだなってわかったのよ」

勝輝は口を挟まず黙ってジーの話を聞いていた。

「だから俺は旅をしながらあの世に行きそびれたヤツに声をかけて天に送ってるのさ」勝輝は自分も宙に上がったことを思い出しながらジーに伝えた。

「お、俺もだよ!俺も宙に浮いたんだよ、死んだとき。でも天まで行かなかった。空に吸い込まれていく途中で気絶しちゃったんだ」「え?そうなの?そのパターンは見たことないな。宙に浮くとみんな見えなくなるまで上にあがっていくぜ?」

勝輝はなぜ天まであがらなかったのか、それはジーも知らないことだった。2人は不思議な現象に頭を悩ませたがしばらくするとジーは笑顔で勝輝に言った。「まぁ、気にするなよ。悩んだって仕方のないことだってある。そのうち誰かが教えてくれるさ。俺はカツキがいたほうが楽しく旅ができるよ。はははっ!1人だとどうしても孤独に感じちゃうからなぁ〜」ジーはいつも明るいが寂しがり屋の一面もあるようだ。

勝輝はこのタイミングで旅への同行について切り出した。「旅の話しなんだけどさ…。しばらく俺も一緒について行っていいかな?俺、正直、家帰ってもどうすればいいかわかんなくてさ。また自分の葬式みたいなの見るのは気持ち悪いしジーちゃんと旅してた方が正直楽しいからさ。せっかく死んだんだからエンジョイしたほうがいいでしょ?」「そうだな、カツキは運がいい!俺とすぐに出会えたんだから。死んですぐに友達ができるなんてラッキーすぎるだろ、お前!わははっ!エンジョイしとけ!」

「っていうか事故って死んでる時点で運が悪いんだけどね!あはははは!」まったくその通りだと、2人とも自分たちが死んだことなど気にも止めていない。星空が眩しい真夜中のキャンプ場に2人のバカ笑いが響いた。それは生きている他の人間にも聞こえてしまいそうなくらい楽しげで大きな笑い声だった。

完結しています。全26章あります。

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