輪廻を駆ける(20:悠真の家族)

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20:悠真の家族

勝輝は交通安全祈願のお守りを買うためにいくつかのお守りを見たかった。

これからジーと2人でバイク旅を続けるのならお守りくらいは持っておこうと考えたのだ。

「ジーちゃん、俺お守り買っていくけどジーちゃんも買う?」

「いや、俺はもうバイクにつけてあるし、お守りはいいや。俺ちょっとあっちの方行ってるわ」

ジーはそう言って公園の方を指さしていた。

「わかった、買ったらそっち行くよ」

勝輝はそう伝えるとお守りが並んでいる前に立ち、どれにしようかと眺め始めた。

勝輝はてんとうむしのデザインがあしらわれた黄色いお守りを買った。

買ったと言ってもボックスの中に自分でお金を入れて買うスタイルの無人販売だ。

勝輝はキッチリとお金を入れてお守りを一つ握りしめた。

お守りを買っている勝輝の後ろから子供の声が耳に吸い込まれた。

「パッパ〜、おがニャッピー?」

父親に抱き抱えられながら、男の子はお守りにデザインされているキャラクターを探しているようだ。

勝輝は男の子がお守りを探しやすいように一歩退いた。

子供を抱き抱える父親を見た瞬間勝輝は思わず声を上げた。

「悠真っ!」

それは勝輝の親友の悠真だった。

「悠真!お前何でこんなところにいるんだよ、凄い偶然だなぁ!」

勝輝は一瞬笑顔になったがすぐに素に戻った。

勝輝の声は悠真には届いていない。

ふと子供を見たが、子供の方にも勝輝の声が届いていない様子だった。

「そうだ、ジーちゃん以外に声は届かないんだった…」

子供と一緒に色々なお守りを見ている悠真は1つを取り上げた。

「おっ、いたな!おがニャッピー!これ買って行こう」

そうやってかわいいキャラクターがバイクに乗っているキーホルダーを子供に見せた。

「うふふふー」

子供は照れたような嬉しい笑いで悠真に微笑んだ。

やっと言葉が出たばかり、3歳くらいのように見える。

「悠真ぁー、早いってば。ベビーカーあるんだからおいていかないでよー、もー」

後ろから子供の乗っていないベビーカーを押しながら女性が近づいてきた。

帽子を深く被った女性の顔を確認すると勝輝は驚いた。

「美羽っ!」

母親らしき女性は勝輝と悠真と同じ大学へ通っていたクラスメイトの1人の美羽だった。

しかしどうにも様子がおかしい。美羽の雰囲気が勝輝の知っているイメージよりもだいぶ大人びている。

「はい、ハルくんおいで。パパ今からおがニャッピー買うから待っててあげて」

「マーマ、おがニャッピ!」

子供はとても嬉しそうに悠真から美羽へとバトンタッチされた。

勝輝は何が何だかわからずに傍らでじっと3人の様子を見つめていた。

呼吸も忘れ、瞬きも忘れ、口も開いたままで悠真の様子を見ていた。

勝輝はあることに気づいた。

悠真もかなり大人びている。

勝輝は冷静に分析をしていた。

「えっと…。悠真がパパで美羽がママで、子供がいる…。2人は結婚していて家族になった??え?この子は美羽が産んだ子なのか?」

そんなことはありえない。なぜなら悠真も美羽も同じ大学に通っていて同級生なのだから。

美羽が妊娠、出産なんてタイミングはなかったはずだ。

「美羽、これも買ってきた」

そう言って悠真が美羽に見せたのは勝輝が買ったものと同じ黄色いてんとう虫のお守りだった。

「てんとう虫で転倒防止なの?さすがバイク神社だね、かわいいじゃん!こういうの勝輝くんに持たせておけばよかったよね」

不意に勝輝の名前が出てきたので勝輝は驚いた。

「そうだなー、でもアイツ転倒するようなドジじゃないよ。あの事故だって勝輝は何も悪くなかったし。まぁ相手のほうも何も悪くないってことなんだけどさ…。本当にただただ運が悪かったってだけ…」

「もう5年も経つのに——」悠真は一息ついた。

「いまだに勝輝がバイクに乗ってひょっこり現れそうな気がする」

5年?5年って何だ?

勝輝は状況がよくわからないままやりとりを見つめるだけだった。

「確かに勝輝くんは転倒はしないよね。悠真はドジなとこがあるからちゃんとお守りをつけてたほうがいいよ。ふふふっ」

美羽は勝輝よりも悠真のほうが運動音痴だと思っているようだ。

確かに勝輝はバイクで転倒したことなんて一度もない。

美羽は勝輝のすぐ横をスーッと通過し悠真がつまみあげているお守りをじっと見ていた。

美羽の一箇所に結んだ長い髪の毛が揺れた。

勝輝は美羽の長く伸びた髪を見て、自分が死んでしまったときから何年もの月日が経過していることを悟った。

ジーと過ごした何日かの間にいったいどれほどの月日が進んでしまったというのか。

勝輝は何もできず、悠真と美羽のやりとりを眺めながら立ち尽くした。

美羽はベビーカーに子供を乗せるとお守りとキーホルダーの両方を子供に持たせて、押し始めた。

何気ない会話をしながら駐車場まで戻ってきた家族と一緒に勝輝もついて来てしまった。

「悠真!やっぱり聞こえてないのか!?」

勝輝はダメだとわかっていながらも声をかけた。

悠真に声は届かなかった。

悠真は勝輝の声を無視しているかのように淡々と帰り支度を始めた。

駐車場にあった1台の車をキーレスでピッと開けて、子供をチャイルドシートに乗せたあと、ベビーカーを折りたたんでトランクへ押し込んだ。

悠真は運転席に座り、美羽は後部座席、その隣には小さな男の子。

3人が乗った車はエンジンがかかるとすぐに、駐車場に勝輝を残したまま走り去ってしまった。

悠真には、ただ一言でいいから声が届いてほしかった。

勝輝は胸の奥が冷たくなったような気がした。

完結しています。全26章あります。

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