12:支払い
「秀くん、もう大丈夫だよ」
「何から何までごめん。俺が全部悪かった」
「いや、俺もマジでごめん。今までCEOをやってもらったり、秀くんにばっかり重いもんを背負わせすぎちゃってたんだよね」
「まぁ俺の方が適任だったんだから、そういうもんだろ」
「本当、ごめん。気がつくのが遅すぎた。最近、ここ1ヶ月くらいかな、マジで様子がおかしかったから心配してたんだよ」
やむを得ず金庫の金を持ち出した佐野は、従業員に給料を振り込んでいた。手続き的にはギリギリだった。佐野は持ち出した金と未払いの分の明細を1人で全部整理していた。
「すごいタイミングが悪かったよ。みんなに会社の倒産を告げて、ネットワークもサブスクも全部止めて、電気もガスも水道も全部解約。気がつけば、電話も繋がらないんだから…。本当に参ったよ。秀くんのこともずいぶん探したよ。家も引き払っちゃっていないし、取引先や先輩に声かけしてもわからないし…」
佐野が声をかけた共通の先輩…。かつて秀樹と佐野が起業のコンサルを受けた先輩が、実はすでにこの世を去っていた…。佐野は自殺してしまった先輩のことを秀樹に伝えるのはやめた。
「俺さぁ、あの金庫だけは秀くんと2人で開けたかったから、会社でずっと待っていたんだ。でも、タイムリミットだった…」
「ははは。お前が金を持って会社をでて、必死にみんなにお金の手続きをしてくれて…。その間に俺は入れ代わりで会社に行って、1人で死んじまおうとしてたんだ。笑えるよ」
秀樹は遠くを見つめるような目で、乾いた笑いに続けてため息を吐いた。
「本当に間一髪、助かってよかった。首吊りなんて…まさか、そこまで… 本当に無事でよかった。奇跡だよ」
「奇跡… かもな…。色々あってさ…」
秀樹の手にはダスティ・ブルーに手渡した投げ縄の感触がはっきりと残っていた。
「生きててくれてよかった」
「さぁ、どうだかな。あとどれくらいの借金があるんだか…」
生きていても死んでいても、背負う十字架の重さは変わらない。〝続行〟と言われたときの絶望感が秀樹の喉元にまとわりついた。
「借金か…。怖すぎて頭が働かねーよ」
「借金のことは今は忘れよう。とりあえずだけど、残りの現金が120万ある。病院はこれでなんとかなる。それから俺が少し蓄えてたぶんが200万程度ある。それでなんとか切り抜けよう。これからのことはその金を元に何か考えるしかないよ。今はゆっくり休んで」
そう言って佐野は現金120万円の入った銀行の紙の封筒を秀樹に手渡した。
病室で受け取るようなものでもないが、秀樹はくしゃくしゃの封筒に入った現金を受け取ると、少しだけホッとした。
「あぁ、本当に何から何まで、ごめん。ありがとう」
「何言ってるんだよ。俺が秀君から受けた恩恵は、こんなもんじゃないよ。はははっ」
会社立ち上げ時のメンバーで、学生の頃からの親友。秀樹の元に残った、この世でたった1人の人物、佐野。
秀樹は佐野が金庫の金を持ち去って、蒸発してしまったと考えたことを、恥ずかしいほどに後悔した。
これから先どうなるのかはわからない。
「とりあえず初めての入院をエンジョイさせてもらうさ」
病室から窓の外を眺めながら、2人は笑った。
考えたってどうしようもないことがたくさんありすぎて、笑うしかなかったのかもしれない。
完結しています。全13章あります。


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