10:先輩
「お前さっき言ったよな、他にもfoolはたくさんいるんだろ?何でわざわざ俺のところに来た?」
『foolはゴミだ。腐るほどいる。二宮英司ってのはお前の知り合いか?』
二宮英司!?俺に起業をコンサルしてくれた先輩だが、なぜその名前が今出てくるんだ?
男はピンときた秀樹の表情を見逃しはしない。
『知り合いなんだろう?』
「そうさ、英司さんは俺の先輩だ」
『クククッ。そうかそうか、お前の先輩だったか。二宮は俺の管轄だ。二宮は罪を償うために働かせている。foolの増殖を抑えるために、俺の管轄でな』
「働かせてるって、どういうことだ?」
『二宮は1億円以上の借金を背負った状態で自殺してfoolになった』
なんだって?英司さんは成功者だ。悠々自適に暮らしてるはずだっただろ。自殺なんて風の噂にも聞いていないぞ。いったい何が?
驚きを隠せない。秀樹は思わず聞いた。
「英司さんはどうして助けなかったんだ?」
『二宮が金持ちなんてのは全部〝嘘〟だ。二宮はクズだ。借金で首が回らなくなって死にやがった。しかもヤツの門下生は次々にfoolになる』
「英司さんがクズ?」
『アイツはどうしょうもないクズだ。助ける価値がない。アイツの周りにいる人間が次々とfoolになってやってやってくるもんだから、俺はヤツを中心に死にそうな奴らを監視することにした。お前もその中の1人さ』
「そんな…、信じられない…。英司さんは今何を…?」
『二宮には俺の命令で、foolの世話係をやらせている。1日1000円だ』
「強制労働ってことか!?」
『そうさ、当たり前だ。1億も借金を抱えている上にたくさんの人を騙してたんだからな。あいつは罪が重すぎる。1日1000円、借金返済まで270年くらいは働いてもらう』
270年!?
なんなんだその計算は…。じゃあ俺は、俺はどうなっちまうんだ?
「英司さん以外にも、働いている人がいるのか?働かなかったらどうなる?」
『英司はクズすぎて、最も過酷な環境で働かせている。働かなけりゃ270年が300年とか400年とかに伸びるだけ。借金が返せないだけさ。ただ、逃げも隠れもできないけどな』
よく分からないがヤバい。死んで無になるというのは確かに俺の思い込みかも知れない。英司さんの話し、信じがたいがこの男が言っていることは、嘘やでたらめではなさそうだ…。
待っているのは、あの世での強制労働ってことなのか…
強制労働から逃げも隠れもできず、270年…。英司さんは10数年の間に、自殺を決行するまでに、追い込まれてしまったというのか。1日たったの1000円で270年の強制労働は、あまりにも厳しすぎる。
『強制労働と言っても色々とある。何人か集めて力仕事をさせるパターンとかな。例えば、fool共、15人編成で山に安全な登山道を作る仕事だ。標高1800mの道が完成したら終わりだ。作業中に滑落とかして勝手に減るから、その度に補充してる』
「滑落して減るって、あの世で死んでるのか?補充って?減ったやつは、どうなっ…」
『知るかよ。俺もそこまで知らねーよ』
秀樹が問いかけるのを遮って男は答えた。
『とにかく完成するまで終わらねー。辞めさせはしない。何年かかるか知らんけどな』
あの世で何をやらされるかなんて、この男にはわからないのか。いや、こいつにはfoolがどうなろうと、関係ないんじゃないか…。
「俺の自殺を思い止まらせたってお前には何もメリットがないじゃないか。ただ強制労働させるだけなのに、なぜロープを切って俺の自殺を止めたんだよ?」
『質問ばっかりしてきてうぜーな』
男は苛立ちながら舌を鳴らした。
『うじゃうじゃ、うじゃうじゃ、余ってるんだよ、fool共が!
仕事があるヤツはまだマシさ。勝手に罪を背負ってやってきたお前らに、救済のために与える仕事なんて、都合よくあるわけねーんだよ』
「それじゃ、仕事がないヤツらは借金を返せないじゃないか」
『あぁ、その通りだ。全員消えて無くなってくれりゃ俺も幸せなんだよ。いっそ全員山の上から谷底に突き落としちまいたいくらいさ。ただそんなことをすれば俺が犯罪者になっちまう』
「あの世で罪を償うってのは逃れられない運命ってことなのか…」
『絶対に逃れられない。罪を償うまではな…。何もはじまらない。ゴミ共1人1人の魂に番号をつけて、借金返済から来世への転生まで、全部管理しなくちゃならねぇのさ。1匹残らず全員な』
「それじゃfool達は溜まる一方じゃないか?」
『その通りさ。だから困ってるんだよ。1匹でも減らしたいって現実なのさ』
「だとしても、俺が死んでても、別にお前に不都合なことなんてないじゃないか」
『はぁ…。コレだから何も知らないバカを相手にするのは疲れる』
男は眉をひそめて、やれやれという態度で呆れた様子で言った。
『お前みたいに借金が大きいヤツはなかなか開放できない。実に迷惑だ。二宮のようにちみちみと借金を返済させるか、難易度の高いミッションをクリアさせるか…。いずれにしても、かなり面倒なことになる。はぁ…、考えただけでも気が重くなる…。お前みたいなヤツは来ないで欲しい』
男は苦笑いを浮かべながら秀樹の判断を待っていた。
秀樹は考え直し始めていた。何もかもを楽にしてくれるはずの死。その考えは今、覆ろうとしている。
死んでも楽にはなれない。
『よく考えろ。生き残ってこっちで借金をなんとかする方が、絶対に幸せだと思わないか?借金を抱えちまったんだ、そりゃ辛いだろうさ。でもfoolになるよりはマシだぞ。お前たちの世界はホントにバグってるとしか思えない。なにせ、魂を管理する機関が無いんだからなぁ」
「何をするにも自由。そう言いたいのかよ?」
『そうだ。生きていれば自由だ。だから生きて借金をなんとかしろ』
「もし俺の借金が今より増えたらどうする?」
『どうするも、こうするもないのさ。借金は必ず返さなきゃならない。罪は必ず償わなきゃならないんだ。あとはどこで罪を償うのか…。それだけだ』
「もしそうだとしたら、俺がこの世に生き残って罪を償えば、foolになってお前のところで罪を償わなくて済む。お前の仕事が楽になるって、そう言いたいのか?」
『ああ、そうだ』
「でも、俺が借金を返せる保証なんてないじゃないか」
『その通りだ。だから、頑張って少しでも罪を減らせよ。課せられる罪は借金だけじゃない。早く死ぬのも罪。他の人間の魂を傷つけるのも罪。人殺しや犯罪もしちゃいけないのさ』
「やれるかわかんねーよ、そんなの。結局お前は、清く正しく生きろって言いたいのかよ」
『ククク…。結果的にそうなるな』
「何がおかしい」
『もう何人か説得して自殺を止めてるんだけどよ。俺は選んで来てるんだよ。自力でなんとかできそうなヤツをな。お前、見込みあるよ。ククク』
「…」
『こっちの世界に来てるのがバレたら俺もヤバイのさ。バレたらどんな罰を与えられるかわからねー。だから、見込みのないヤツは説得するだけ無駄』
「なんで俺に見込みがあるってわかるんだよ」
『ククク、勘だ』
「勘かよ。ちっとも当てにならないな」
『そもそも、俺がリスクを犯してまでfool予備軍を説得にきてるのはなぁ、俺の管轄… そう、日本出身のfoolが異常に多いからだ』
「日本人がそんなに多いのか?」
『多いなんてもんじゃない。地球全体の割合からしても、お前らぶっちぎりの1位。やればできるのに諦めるのが早すぎるんだよ、お前ら日本人は』
「…」
『喋りすぎたな。長居はしたくない。もう一度聞く。本当に死ぬでいいのか?お前は生き延びて借金を返済できる可能性があるんじゃないか?』
「…」
『二宮みたいなクズとは違うんじゃないか?』
秀樹は握りしめたロープをそっと男に返した。
完結しています。全13章あります。


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