22:仙人
駐車場で談笑していると、生ぬるいつむじ風が勝輝とジーの頬をなぞった。遠くには不自然な白い霧が立ち込め、霧の奥から誰も乗っていない真っ黒なバイクがゆっくりと現れた。無人のバイクは勝輝とジーの前でゆっくりと停車した。
「何これ?何これ?何でバイクが勝手に動いてるの?」「勝輝、よく見てみろって、ちゃんと人が乗ってるから。ご先祖さん、何か用か?」ジーがバイクに声をかけるとバイクに跨る人影が浮かび上がってきた。
人影は白くて長い髪と顎髭を揺らしていた。背筋はピンと張り、袖の長い肌触りの良さそうなグレーのローブをなびかせていた。
「ご先祖さん!急に出てくるのやめてよー。ビックリするから。わははは!」「さっきからそこにいたわい。お前に話があってきたんじゃ」ジーがご先祖さんと呼ぶお爺さんはまるで仙人のような見た目で、まるで昔話の絵巻から抜け出したような仙人だった。ただバイクに乗って現れたのが意外すぎて、勝輝はこの仙人がご先祖様なのか?と今ひとつ信じることができずにいた。
「しかしお前はよく頑張るのぉ。みんな感心しとる」「誰が感心してくれてるのかわからないけど、たいしたことはしてないよ。俺は旅をしてるだけだし。でも彷徨ってる人間って探そうとするとなかなか見つからないし、大変って言えば大変かぁ!わはは!」
勝輝はジーと仙人のやりとりを見つめていた。
「お前のおかげでもう10人は無事に帰してるわぃ、助かっとる」ジーは仙人にニコっと微笑んでうんうんと頷いた。「んで、話ってのは何さ?」
「お前の縁の者がコッチにくる予定なのでそろそろお前にも一緒についてきてもらおうと考えていたんじゃが…」「おっ!俺もあの世に行ける日が来たってことかー!?」仙人は目を細めてジーを見つめた。「まぁ、そう急ぐでない…。それがそう簡単な話ではなくてな…」どうやら仙人はジーに用があり傍で見つめている勝輝に気がついていない様子だった。
「実はお前のひ孫にあたる者が天に行けずに彷徨ってしまったらしい。そやつが天に帰る前に戻してやらなきゃならん。これからその者を探さなきゃならんが、居場所がまったく見当がつかんのじゃ…」仙人が俯いたのを見て、勝輝の胸がチクリと痛んだ。
「ご先祖さんさぁ、ちゃんとよく見てってばよ!」ジーはそう言うと勝輝のほうをちょんちょんと指さした。「ん?この少年は?」仙人は勝輝が何も話かけなかったので死んでしまった幽霊だとは思わなかったのだろう。最初からジーにしか声をかけていなかった。
仙人はようやく勝輝に気づいたらしい。「あっ、どうも、はじめまして。勝輝です…。あっ、桐生勝輝です!」勝輝はちゃんと苗字も伝えておかなくてはと、フルネームで名前を言い直した。
仙人は自分の目を見ながら話かけてくる勝輝を見て幽霊だと認識した。「桐生勝輝?勝輝か!?お前、勝輝なのかー!?」仙人は驚いた様子で勝輝の名前を呼んだ。その声に勝輝の背筋はピンと伸びた。
「勝治!どうしてお前達が一緒にいるんじゃ!?」「さぁ?俺達もワケわかんないんだけど友達になって一緒に旅する予定だったのさ。でもさっき親族だって初めて気づいたところさ」
仙人は彷徨ってしまった勝輝を探し出すあてがまったく無く困り果てていた。探すのをジーに手伝わせるために現れたのだった。
仙人は勝輝に近づいて、勝輝を抱きしめた。「あぁ、よかったわい、探しとったんじゃ…」本気で心配していた様子の仙人は勝輝の背中を撫で、ポンポンと叩いた。
「よかったな、ご先祖さん。せっかくこうして会えたんだからどこか落ち着いて話せる場所に移動しようぜ」ジーの提案で3人はそこから近くの喫茶店へ移動した。それからゆっくりと落ち着いて会話することにした。
完結しています。全26章あります。
- 輪廻を駆ける(1:慌ただしい勝輝の朝)
- 輪廻を駆ける(2:勝輝の父と母)
- 輪廻を駆ける(3:パーツショップ)
- 輪廻を駆ける(4:悠真がいたコンビニ)
- 輪廻を駆ける(5:通夜)
- 輪廻を駆ける(6:完成したバイク)
- 輪廻を駆ける(7:二度目の原付)
- 輪廻を駆ける(8:衝突)
- 輪廻を駆ける(9:確信)
- 輪廻を駆ける(10:幽霊という存在)
- 輪廻を駆ける(11:風を切る2台のバイク)
- 輪廻を駆ける(12:海ホタルのカレー)
- 輪廻を駆ける(13:続行)
- 輪廻を駆ける(14:ゴールデンレトリバー)
- 輪廻を駆ける(15:アウトドア好き)
- 輪廻を駆ける(16:あの世への送り方)
- 輪廻を駆ける(17:祖父勝男)
- 輪廻を駆ける(18:ジーの朝食)
- 輪廻を駆ける(19:友達)
- 輪廻を駆ける(20:悠真の家族)
- 輪廻を駆ける(21:鹿公園)
- 輪廻を駆ける(22:仙人)
- 輪廻を駆ける(23:喫茶店)
- 輪廻を駆ける(24:お迎え組)
- 輪廻を駆ける(25:勝輝の選択)
- 輪廻を駆ける(26:エピローグ)
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