9:長考
秀樹は冷静に分析していた。男は暴力や苦痛を与えに来たわけではなさそうだった。秀樹を殺しに来た死神ではない。なぜかは分からないが、自殺を止めに来ている。
秀樹は自然と話しを聞く姿勢になっていた。
「もう俺は詰んでるんだ。お前はわかってるんだろ?俺はもう…死ぬしか…」
『待て待て、待てよ』
秀樹の言葉を遮って、男はすっと立ち上がり、カウボーイハットのつばをキュッと摘んで帽子を深めに被り直した。そして、秀樹を見つめながら続けた。
『いいか、お前たちfoolは正規ルートじゃない。魂の転生は後回しだ』
男はこの世の存在じゃない。秀樹はあり得ない現実をなんとか受け入れようと必死だった。頭の中でロジカルに分析してはいるものの、得体の知れない男の言うことを聞かずにはいれなかった。
『楽になんかならねーんだよ。お前は死んだら借金を背負ったまま、別の世界に移動する。借金は消えない。罪はfoolに課せられた十字架だ。借金の返済ができずに自殺する人間は、借金を背負ったまま移動する』
「え!?借金が消えない?もし俺が自殺していたら、どうなっていたって言うんだ?」
『死んでも楽にはならない運命を辿る。つまり、この世の苦しみをそのまま受け継いで、〝続行〟ってことだ』
「続行って…。あの世に金が必要だってのかよ?」
『そうだ。わかってきたようだな。三途の川を渡るのに金が必要だって話し、聞いたことがあるだろ?』
「確かに聞いたことはある」
『クククッ。お利口さんだ。あの世でも、金は必要なんだよ』
あの世でも金が必要?借金も背負ったままだと?
「死んでも楽になれない?じゃあ、どうなっちまうんだよ?どうすればいいんだよ!」
『だから俺がロープを切ってやったんだろうが。生きて借金を返済しろ。金を返せばいいんだ。簡単な話しさ』
秀樹は考えた。
もし本当に、この男が言うように死んでも続行なら、死ぬ意味がない。むしろ十字架を背負ったまま何も変わらない。生きるよりも過酷な運命が待っているというなら、死ぬ意味がない。
「簡単に言うなよ。全然簡単じゃない。簡単なもんか。俺は家族がいない。仕事の仲間もいない。親友もいない。銀行の融資もなければ、従業員の給料すら払えない。ただ生き残ったって金が返せるわけねーんだよ」
『かー、めんどくせぇな。クッソだせぇ。情けねぇ。じゃあ死ねよ』
男はそう言うと、腰に携えたボロい投げ縄を秀樹に投げつけた。
『焼き切らねーから、それで死ね』
秀樹は男から投げつけられたロープを握りしめた。情けなくて、ゴミになったような気分だった。惨めな気持ちが立ち込めた。男に教えてもらうしかなかった。
「もう一度教えてくれ。お前何なんだ?何でここに来た?」
『俺はfoolの1人1人に罪の重さを理解させる役目。それが俺の仕事だ。教えてやってるのに死ぬって言うなら止めはしない。勝手にしろ。俺はもうお前に伝えたからな。あとはお前が決めろ』
秀樹はロープを握りしめたまま、半信半疑で男を睨みつけていた。
完結しています。全13章あります。続きの章は随時更新しますので、楽しみにお待ちください。


コメント