13:罪
退院の日、佐野が迎えに来てくれた。しばらくは佐野の部屋に世話になる事にした。っていうか、それしか選択肢がない。
「秀くん、ひとまず退院おめでとう、だね」
「ああ。色々、ありがとうな」
佐野の部屋に帰ってきた2人は机の上にある見たくもない明細の束を目の当たりにした。
「コレ、全部ヤバイ書類ってこと?だよな…」
「そうだね…」
「会社に届いてたヤツも全部あるのか?」
「うん、1人じゃもう何がなんだかわからないよ。ただ、かなりヤバイことだけはわかる…」
おびただしい量の明細…。会社を潰してしまった経営者への通知がこんなにも重いものとは考えもしなかった。
「ダメだ。俺も何がなんだかわからん。専門家に相談するしかないな…」
「うーん、そうなんだよね。今倒産の処理について弁護士に相談してるんだけど…。あぁ、経理の果穂ちゃんが残ってくれてたらなぁ…」
「まぁ、仕方ないさ。果穂ちゃんはもういないんだから、俺たちで調べながらやるっきゃない。次に弁護士に会う約束は?」
「明後日だよ…」
さすがに退院して帰ってきたばかりで、とてもじゃないがやる気にならない。気がつけば、腹だけはいつも減っている。
「秀くん、お腹すいたね」
「あぁ、そうだな。腹が減ってるとろくなことを考えない。俺の退院祝いだ。お腹いっぱい焼肉でも食べに行こうぜ!佐野のお金で!はははっ!」
「いいね!」
飯。焼肉を食べに行く。
俺は1人じゃない。
佐野と2人で食べる焼肉は秀樹の胸に幸福を刻んだ。誰かと飯を食べられる。そのこと自体が〝この世〟の幸せそのものなんだと…。大袈裟なようだが、生きていて1番美味い焼肉だった。
焼肉店を出た秀樹と佐野はコンビニに立ち寄った。
秀樹は帰ってからやらなきゃならないことと向き合い、ペットボトルのコーラとちょっとした菓子を買おうと、カゴの中へ商品を入れていた。
佐野も秀樹のカゴの中へ色々と入れている。自由に金など使っていい立場ではないかもしれないが、この時だけは無礼講。好きなものを選んでいた。
そのときだ。
秀樹の前を横切った中学生ほどの少年が商品棚から無造作に、一握りほどのグミの袋を手に取った。そして、その袋を持った手をそのままポケットへと突っ込んだ。
秀樹は咄嗟に少年の肩を掴んだ。
少年は今にも喰いかかるような獣のような目で秀樹を見た。だが、秀樹は怯むことなく少年に言った。
「うん。やめとけ」
「…」
少年はポケットから菓子の袋を掴んだ手を出し、レジで精算を済ますと、秀樹のほうをチラリとも見ずにそそくさと去って行った。
秀樹は呟いた。「俺はfoolじゃない」
いいことをしようとも、おせっかいを焼こうとも思わない。他人がどうなろうと知ったことじゃない。ただ、大きかろうが、小さかろうが、〝罪〟なんて作らないほうがいいに決まっている。
「ありがとうございましたー」
コンビニ店員の爽やかな声が響いた。
店の外に出ると佐野が言った。
「秀くんもコーラ買ったの?俺ら、高校生の頃から買うもん変わってないよな」
「ははは、そうだな。コーラ飲みながら一仕事ってことさ」
「だね」
この先どうなるかなんてわからない。とりあえず、生きてるってだけでいいのかもしれない。
重いんだか軽いんだかわからない精神状態だが、佐野のおかげでなんとかなる気もしているから不思議だ。
腹一杯の状態の秀樹と佐野。きっと、束の間の幸福だろう…。
『ククク。それでいい』
気のせいだとは思うが、どこからか嘲笑うような声が聞こえたような気がした。
生きて借金を返す…。ようやくスタートってことか…。
コーラを一口飲んだ。俺はfoolじゃない、「もう道は間違えない」と静かに誓った。
完結しています。全13章あります。


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