4:再実行
手が震える。
自分の意思とは関係なくガタガタと震える手を無視して、螺旋階段にロープを結ぶ。力など、全然入らない。震えながらも再び輪を作った。そして、グンっと引っ張り強度を確かめた。
「くそ。さっきのアレをもう一回やらなくちゃいけないのか…」
淡々と準備をするが、脚立を蹴り飛ばした後の衝撃、思い出すと行動がついていかない。落ちた時の衝撃で、足がかなり痛む。
秀樹は恐怖していた。
あの衝撃をまた自分で実行しなくてはならない。1回目とは覚悟の重みがまるで違う。
螺旋階段にぶら下がるロープの輪を握り、体重を全て乗せてぶら下がってみた。懸垂の要領で自重を持ち上げても切れる様子はない。今度こそ大丈夫だという確信があるだけに、怖くて仕方がない。
次で全てが終わる…。
「関係ねぇ。どうせこのまま生きても借金だらけ…。死んだも同然。もうやるっきゃねぇ」
気がつけば手も足も震えていた。
「やるっきゃねーんだよ!」
秀樹は1人自分を鼓舞した。
脚立をセットして、2段登る。目の前にある輪に顔を潜らせた。
あとは蹴るだけ。脚立を蹴って終わらせる。
蹴れ!
蹴るんだ!
終わらせろ!
秀樹はやってのけた。傷んだ足で恐怖に飲み込まれながらも、脚立を蹴り飛ばした。
衝撃は一瞬。
秀樹は首根っこを掴み上げられた子猫のように、引っ張りあげられる。先ほどと同じように上へ上へ、ものすごい勢いで上昇していく。ぐんぐん地面が遠ざかっていく。
「さっきと同じだ。人間ってのは死ぬと宇宙に行くってことなのか?」
2度目の宇宙空間。1回目とまるで同じ位置、同じ光景。目の前には青く美しい地球が見えている。
「死ぬとこうなるってことなのか…」
ドサーッ!
「がはっ!がはっ!…ごっほぉ!」
!?
また失敗!?
「ちくしょー!」
螺旋階段から見えるエントランスには姿見の大きな鏡がある。外出前の身だしなみチェック用に据え付けさせた、大きな鏡だ。ふと、自分の姿を確認した。
床に這いつくばった秀樹は顔面蒼白。唇は青白く、まるでゾンビのようだった。かつてブランドスーツに身を纏い〝社長、行ってらっしゃいませ〟と声をかけられていた秀樹とはまるで別人。自分の姿が、嘘のように情けない。
今度はロープの輪が解けてしまったようだ。鏡を見て気づいた。首にロープが巻き付いていない。だが、しっかりと首にロープの跡が残っている。ヘドロを纏った蛇が首に巻き付いたような、薄気味の悪い跡だった。
『クククっ』
またしても何かに嘲笑われるような、笑い声が、秀樹の頭の中に響いた。秀樹は座り込み、鏡に映る自分の姿から視線を外すと、空中を見つめ、ため息を漏らした。
暗く、重い、絶望の温度を湿らせたため息の音が、短く一瞬だけ響いた。
完結しています。全13章あります。


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