3:実行
秀樹はゆっくりとロープへ頭を通すと、迷うことなく脚立を蹴り飛ばした…。
瞬間…。
「ぐ… が…」
何も声を上げることはできなかった。一気に喉が締まり、一瞬で窒息。誰かに首を絞められるなんて生優しい締め付けではない。
考えることも、キャンセルすることも許されない。呼吸すらできない。
秀樹の視界は真っ黒な闇に遮断され、意識は肉体を置き去りにした。
秀樹は首を吊ってぶらさがる自分から、ぬるっと抜け出て、上昇を始めた。今までの人生で見たことのない光景だった。
「死んだ。死んでる。俺が死んでいる。どんどん離れていく…」
秀樹は建物も屋根も、全て突き抜けて上昇した。ドローンの空撮のように、マップアプリのように、自分のオフィスを空の上から眺め、次第にどんどんと遠ざかる…。雲を突き抜け、日本の形を見下ろし、一気に上昇。大気圏すら飛び出していた。それは、一瞬の出来事だった。
秀樹の目の前、それは宇宙空間だった。真っ黒な宇宙に揺蕩っていた。音もなく光の無い闇の中。目の前には青く光る地球が見えている。何かに引っ張られるように、一瞬のうちに宇宙まで上昇してしまったようだ。
「なんて光景なんだ…」
ドサーッ!
「がはっ!ごっほ!!ごっほ!!」
目を開くと会社の床だった。床に自分が転がっている。いや、自分だけじゃない。ロープも一緒に転がっている。
「おえっ、おえーーっ!」
秀樹は涙目になって、吐いてしまった。
失敗だ。
首吊りに失敗してしまったようだ。秀樹の体重に耐えられず、ロープが切れて、秀樹は床に落ちた。
『死ねなかったなぁ。くくくっ』
どこからともなく、秀樹を嘲笑うような声が、微かに聞こえた気がした。だが、秀樹しかいないオフィスに声などするはずはなかった。
落ちたロープ、千切れた部分が焦げているように見える。元々ダメージがあったに違いない。短くなってしまったがもう一度実行する。
それ以外に、もう、選択肢がないのだから…。
完結しています。全13章あります。


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