2:けじめ
株式会社スピリッツ、最高経営責任者、CEO (Chief Executive Officer)、十和田秀樹。
学生の頃からの夢だった社長。自分で立ち上げたベンチャー企業で、その夢を実現した。
秀樹の華々しいサクセスストーリーの裏で、現実は無慈悲で残酷だった。
気がつけば秀樹は何もかもを失い、残ったのは巨額の借金だけだった。
銀行からも融資は受けられず、親身になってくれていたビジネス仲間も、秀樹の会社が金にならないとわかると蜘蛛の子を散らしたように消えてしまった。秀樹のコンサルを受けて事業を成功させた者達でさえも、彼を救いはしなかった。
会社の解体は待ったなしの状況。従業員30人に未払いだった給料を払うために、会社の金庫を開けにきた。
金庫はオフィスの総務担当の席の後ろで、密やかに佇んでいた。少しだけ埃の被ったデスクには1ヶ月前からめくられていないカレンダー。もう誰もめくることはないだろう…。
秀樹は金庫を開けた。
しかし、金庫の中にあるはずの金、3000万円は消えて無くなっていた。金庫を開けられるのは秀樹ともう1人。会社立ち上げ時のメンバーで、学生の頃からの親友の佐野だけ。
秀樹はほんの数時間前に佐野に電話をかけた。しかし、聞こえてきたのは〝この電話番号は現在使われておりません〟というアナウンスだけだった。
佐野は会社が倒産することは知っていたはず。従業員に払う給料すらもう何もなくて、あるのは借金だけ。「まさか、佐野に限ってそんなはずは…」微かな希望に縋り、そう考えるのだが、頭の回転の早い秀樹は自分でも悲しくなるほど最適な答えを導き出してしまう。
最後に残った金庫の3000万円を持って、どこかに消えてしまったのだろう。
全てを察した。
これで、秀樹は完全に四面楚歌。人生そのものが詰んだ瞬間だった。
「本当に情けない…。ちくしょう…。どうしてこんな事になっちまったんだ。信じていた親友すら、金を持ってどこかに消えちまうなんて…」
行き場のない憎しみと怒りが秀樹の頭の中で目まぐるしく暴れ回ったが、空っぽの金庫を見ると虚しくなった。
金、借金…。
人生を狂わせるほどのその影響力の強さに、なすすべも無かった。
大きな声をあげて泣きたい気持ちが湧いたが、秀樹の脳はカラカラに乾き、涙の一滴もでなかった。出たのは誰にも聞こえることのない、小さなため息だけだった…。
理由は単純だった。従業員への〝詫び〟の気持ちもあるが、自分が冷静に作業をできる場所が会社だった。ただそれだけだった。
完結しています。全13章あります。続きの章は随時更新しますので、楽しみにお待ちください。
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