7:fool
『お前、愚か者だよ』
天井から声が聞こえた気がした。秀樹が上を見上げると、トラロープから立ち上った黒煙が集まり、黒い塊を形成していく。
『まだ死なせねーよ。クククッ』
黒い塊は鰯の群れのように、天井で黒い渦となりぐらぐらと揺れていた。
「…な、なんだこれ…」
不気味だった。秀樹は腰を抜かしていた。ただただ見つめる以外に何もできなかった。
胃液の味のする固唾を飲み込むと、喉の奥からゴクリという音が響いた。
秀樹が蹴散らした床に散ったトラロープもチリチリと焼け溶けて、黒煙は1箇所に集まっていく。
こいつはヤバい。何か危ない気がする。秀樹は直感でそう感じていたが、金縛りにかかったように、その場に座り続け、動くことができなかった。
『ロープを切ったのは俺だ』
黒煙はどんどん濃くなり、大きくなり、やがて人の形を成した。薄暗いオフィス、お気に入りだったはずの螺旋階段の下に、怪しく浮かび上がった人の形。
カウボーイハットか?帽子のような形が見える。黒い帽子…。顎紐がぶら下がるのが見えた。徐々に浮かび上がってくる姿を、ただただ見つめていた。
黒い皮の服を身に纏った男の姿がくっきりと浮かび上がった。全身黒ずくめ、顎紐のついたカウボーイハットを被っている。初老の男。子供の頃ワクワクしながら見ていたインディージョーンズを思わせる風貌だが、その不気味さは明らかに人外。
『クククッ。俺がロープを焼き切ってやったんだよ』
掠れた低い声が静かに響く。とてもじゃないが、ワクワクなどという感情が湧くはずもなかった。
完結しています。全13章あります。続きの章は随時更新しますので、楽しみにお待ちください。


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