6:再々実行
3度目の正直、今度こそ。
何も迷いはなかった。2回目の恐怖とはまた何もかも違う感覚。1回目よりもあっさりと全てを捧げた。
本当にありえない。起こりえないことが何度も続く。3度目の実行では、意識を失うまでもなく、秀樹は地面に転がり落ちた。
自分の意思とは無関係に地面にずり下ろされたため、足を挫く。秀樹は地面に転がり、床を拳で殴りつけた。
「くそっ!」
切れるはずのないトラロープが切れただと?秀樹の傍にはブチッと切れたトラロープが散らばっている。秀樹はトラロープの切れはしを掴み取り、その先端を手繰り寄せた。
先が焦げている…
トラロープが焦げていて、その部分からちぎれている。ポリエチレンが焼け溶けたような不自然なちぎれ方だった。
「くっせぇ!」
焼けた先端は魚の内臓を腐らせたような臭いと、ゴムを焼いたような化学臭の入り混じる、不快な臭いだった。強烈な匂いに秀樹は思わず吐いた。
「がはっ、ごほごほ、おえっー!」
昨日から何も食べていない秀樹は、胃液だけの黄色い嘔吐物で床を汚した。
2年前に亡くなった母親の口癖を思い出す。〝あんたはお腹が空いてるとろくなことしない〟全くその通りだった。この日は何も食べていない。とてもじゃないが何かを食べる気になどならなかった。
床に散らばるトラロープ…。震えているのか?落ちたロープを見つめていた。ロープの焦げ跡は異臭を放ちながら、微かに黒い煙を立ち上がらせている。ロープは今焼けている…。焼け溶けていく。
いったい何が?理解が追いつかない。なぜロープが今焼け溶けているのか。
秀樹は鼻と口を肘裏で押さえて、煙を吸い込まないように、焼け解けるトラロープを見つめた。
チリチリと黒い煙を上げながら焼け残ったトラロープは、アルファベットの小文字〝fool〟という文字に残った。
バカ。
愚か者。
何の偶然なのか…
さっき聞いた不快な笑い声が頭の中に響いているようだった。馬鹿にされたような気分で、秀樹は激昂した。歯を食いしばりながら、無言のままfoolの文字を蹴散らした。
ロープはバラバラに飛び散った。
夜の闇は深く、この世でさえも宇宙空間のように冷たい静けさを漂わせていた。
完結しています。全13章あります。


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