命懸けのサッカー観戦(5:ビール)

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5:ビール

スタジアムの中のいつもの席。ここに来るとなんとも言えない気分になるよな。

俺はいつもこの場所で横浜が勝つことだけを信じて、試合を見守っている。

俺がスタジアムに来ないと負けるんだよ、横浜ってチームは。いつでも俺が直接応援しなけりゃエールが届かない。

横浜のサポーターはJ1の全20チームの中でも最高峰に品がいい。

応援も紳士的だし、いつだって俺たちは紳士であり続ける。

だから応援するときは真剣に試合を見る。飲み食いをするなら試合が始まる前のこの時間だけ。

毎回同じ席で応援していると、俺と同じようなサポーター同士で自然に面識が生まれる。

みわたせば、今日もいつもの面子が揃っている。

俺は馴れ馴れしく声をかけたりはしない。なぜなら、人にはそれぞれ重要な儀式があるからだ。俺が声をかけることで相手のルーチンを壊すわけにはいかない。

すなわち、俺にも声をかけてくれるなよってことさ。

俺は試合前、いつもビールを売っている親父に声をかけて一杯飲むんだ。試合前には必ず、ビールを飲んでいる。向こうも俺の存在は知っていて、目が合えば必ず俺のところへ足を運んでくれるから、とても助かっている。

俺が先に着くと、間もなくいつものようにビール親父がやってきた。俺とビール親父がお互い認識している合図がある。

人差し指を立ててビール親父に目線を送るんだけど、この日に限って親父と目が合わない。

いつものビール親父にしちゃおかしい。キョロキョロと客を探しているようだったが、一向に俺には気が付かず、そのうちにどこかへ行っちまった。

ビール親父、わかってねぇ。

今日は大事な試合だってのに全然わかってねぇ。

いつも一杯飲んでから試合に臨むのに、ルーチンが崩れちまうよ。大事な日だからアルコール無しで応援しろってことなら、まぁ仕方がない。

そういう日もある。

俺は無理に呼び止めはしなかった。潔く心を鎮める。ビールは諦めた。

ビールを諦めた途端、次は若いお姉ちゃんの売り子がやってきた。隣のブロックにいるハゲ親父がニコニコしながらお姉ちゃんを呼んでいる。

「マリちゃんからビールをついでもらわないと始まらないよぉ〜」

「もー高橋さんったらいつもお上手なんですから〜。おかわりのときは呼んでくださいね〜」

名前で呼び合ってるのかよ。ったく、ハゲ親父が気持ち悪ぃなぁ。

いるんだよな、若い女子を見ただけで鼻の下を伸ばしているたぬき親父がよー。

売り子の子も甘ったるい声出して、吐き気がする。媚び媚びかよ、気持ち悪ぃ。

俺はあの子からビールなんて絶対に買わない。

いつものビール親父の方が、ファンに美味しいビールを届けたいという情熱がある。悪いけど、あのお姉ちゃんには情熱がねぇ。

何杯ビールが売れたか、ただそれだけだ。

たぬき親父がただ踊らされてるだけなんだよ。気づけよ馬鹿が。だからハゲるんだよ。腹も出てる、だらしねぇ。

いいか、ハゲたぬき、試合が始まったら売り子のお姉ちゃんに気を取られたりするんじゃねぇぞ。

著者コメント

2026年4月連載開始、全12章あります。次回更新楽しみにお待ちください。

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是非、楽しんでいってもらえたらと思います。

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