夏の海風と記憶釣り(8:拓真)

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8:拓真

海斗は野球のユニフォームに着替えていた。

昨晩突然拓真が家に訪れると「海斗、明日試合だから頼むな!」と言ってユニフォームを届けに来た。

「頼むなって言うか、何も聞いてなかったんだけど、どういうこと?」

海斗は訳がわからず拓真に尋ねた。

「あれ?言ってなかったっけ?明日は朝から野球の試合だから出て欲しいんだ。海斗がいないと八人になって辞退ってことになっちゃうから」

“でたよ、でたよ、突然現れて俺の予定を狂わせてくる”拓真はいつも嵐のように海斗の予定を乱しまくってくるのだ。

「おまえ、突然すぎるんだよ!明日ー?別に大丈夫だけど、まったく。湊は?湊に頼めばいいじゃん」

「アイツにはテニスの試合に出てもらうつもり」

拓真に気に入られたら最後、なりふり構わず強引に振り回されてしまう。

湊はテニスの方に誘われているようだった。海斗と同じく野球だったら今頃家の前で大きな声で名前を呼んでくるに違いない。

今朝はゆっくりと一人で球場まで向かうか。

そう考えながら玄関でシューズを履いているときだった。

「海斗ー!」

玄関のドア越しに大きな声で湊が海斗を呼んだ。

あれ?おかしいな、なんで湊が?海斗は玄関のドアを開けると野球のユニフォームを着た湊が立っていた。

「おはよう。あれ?なんで?湊、テニスじゃねーの?」

「え?野球だよ?」

「もうわけがわからん」

海斗と湊は野球の球場に向かいながら昨晩の答え合わせをした。

拓真は昨晩海斗の家に来た後に、湊の家に行ったとのことだ。

確かに「湊にはテニスに出てもらう」って言っていたはずなのに、湊の家にきたときにはゼェゼェと息を切らしながら「悪いんだけど、海斗と野球に出てくれ」と言って野球のユニフォームを渡して来たらしい。

海斗の家から湊の家に行くまでの間に何があったのかわからないが、拓真のことだから試合が終わる頃にはドタバタとやってくるに違いない。

そう判断して、野球の試合に参加した。

レギュラー同然の助っ人である二人は、他のチームメイトとも仲が良くて、試合に出るたびに正式に野球部に入ってくれとお願いされてしまう。

海斗は釣りをしたいからという理由で部活は一切お断り。

湊はサイクリングやスケートボードなどの友達が大勢いて部活はお断り。

二人は自由きまま、気の向くままに助っ人を楽しんでいる。

今日の試合も大盛り上がりの大接戦だった。湊の送りバントも海斗のツーベースヒットも得点には結び付かず、結果的には負けてしまったがチームメイトと共に無事に試合ができたことを喜んだ。

そもそも拓真が手配しなければ試合にさえ参加するつもりもないのだが、どうしてなのか拓真は必ず海斗と湊を使って試合へのエントリーを成功させてしまう。

海斗と湊は球場のシャワー室で汗を流して普段着へと着替えた。

汚れたユニフォームは拓真に返せばいい、ということになっている。

海斗と湊はテニスコートに着た。

「テニスも試合だってことはコッチにいるのかもな」

海斗はそう言って湊と二人で拓真を探した。

すると一番端のコートがワイワイ、ガヤガヤと大盛り上がりになっている。

「あっちが試合なのかもな」

そう言ってコートの方へ近づくと試合をしているのが拓真だった。

「やっぱり、アイツテニスの方に出てるじゃん」

「でもアイツ不思議だよな、ウチに来た時には野球に出るつもりだったんだぜ。今日の野球だってアイツが出てたら勝ってたかもしれないのに」

二人はしばらくの間拓真の試合を見ていた。

拓真はもはや何部かわからない存在だがテニスの決勝戦のようで、応援のギャラリーも多かった。「あっ!」湊が何かに気がついた。

湊が指差すほうを見ると瑠璃と結衣がテニスの試合を応援していた。

瑠璃は手に持ったペットボトルの水を喉に流し込み、額の汗を拭っていた。その仕草が妙に大人びて見えて、海斗は一瞬だけ息を止めた。

思わず瑠璃に視線を向けてしまったが、はっとして横目でちらりと湊を見た。

湊は試合のほうを見ていた。

瑠璃と結衣は拓真を応援していて、海斗と湊には気がついていないようだった。

瑠璃と結衣の周りには他にも何人かの女子がいて、みんな拓真を応援しているようだった。

拓真は応援の期待に応えるかのように華麗なスマッシュを決めると、試合に勝った。

ガッツポーズを決めて多くの拍手を浴びている拓真、今日はテニスの試合で優勝である。

今日の予定はこれで終了。

しばらくは助っ人もないかなと、海斗と湊は少しホッとした。

野球場にテニスコート、サッカーのグラウンド、陸上競技のトラック。この運動公園はとても大きく、いろいろなスポーツの試合が開催される。中央には噴水のある広場があり、週末はそこでマルシェが開かれたりする。

海斗と湊はマルシェで買ったパンを持って、噴水広場のベンチに腰掛けると拓真を待ちながらランチをした。

まもなくだった。「ごめんごめん、野球のほう、どうだった?」試合を終えた拓真が海斗と湊の元へやって来た。

「うん、まぁ惜しかったけど負けたよー」

「拓真が出てたら勝ってたかもなぁ」

「うん、ごめんごめん」

拓真は野球の試合に負けた海斗と湊に何度も謝った。

「っていうかさぁ、なんで拓真、テニスなんだよ?昨日は湊にテニスを任せるみたいなこと言ってたじゃん」

「あぁ、そう思ってたんだけど…」

海斗が尋ねると拓真は訳アリな感じで誤魔化しているようだった。

湊がニヤニヤしながら拓真の顔を覗き込んで言った。

「わかった!女子が応援に来るからってテニスに切り替えだんだろ!?」

まさか、そんな理由で拓真が野球からテニスに切り替える訳ないだろ。

海斗はそう思って拓真を見ると、拓真は恥ずかしそうに言った。

「なんだよっ!悪いかよ!?」

著者コメント

全26章あります。コメント残していただけるととても励みになります。

是非、楽しんでいってもらえたらと思います。

応援よろしくお願いします。

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