輪廻を駆ける(2)

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パーツショップ

ショップに着くなりお目当てのブレーキ用のパーツが見たくてソワソワしたが、店員が見当たらない。いつもなら勝輝を見かけると必ず声をかけて「届いたら連絡するから毎日来なくても平気だよ」と笑って応えてくれる店員だ。今日は非番なのだろう。取り寄せ品を置く棚に何も置いていないのを見た勝輝は「まだ届かないのか」とため息をついて店を出た。

いつもなら賑やかなパーツショップだが、ショップに併設されている整備ガレージのほうも今日は静かだった。原付に跨り帰ろうとすると、整備ガレージのすぐ横でレトロバイクをブンブンふかす男がいる。白髪の短髪で細マッチョ、古びた服装に無精髭の男性がノリノリでバイクをふかしているのだ。

「おじさん、ご機嫌だな」白髪短髪の男はチラッと勝輝を見たが無視してバイクを鳴らす。「ちょ、おじさん!爆音すぎだろ、それー。マジで近所迷惑だから控えたほうがいいと思うよ」

「俺のバイクよりお前の方がうるせーよ、はははっ!それに周りを見てみろって、誰も気にしちゃいねーよ」そう言って笑うと男はまたバイクを鳴らす。

「おじさんはここで何やってるの?ブンブン鳴らしてないで出かけたらどうなんだい?」「俺はコイツのオイル交換を終えたところさ。次は新しいタイヤを付け替えるのさ」

「レトロなバイクでカッコいいね。タイヤ交換してどこか遠出でもするの?」

「ま、そんなところだな」勝輝は煩くて迷惑なおじさんだと思ったが、バイクを整備してご機嫌な男を見て自分と同じバイク好きなんだろうなと妙に納得して憎めなかった。

夜の便でブレーキパーツが届くかもしれないのでまた出直そうと思い、原付に跨りパーツショップをあとにした。

悠真がいたコンビニ

腹はそこまですいてなかったが悠真とラーメンを食べようと思いつく。悠真に会うために家に行ってみたが留守だった。いつもの場所に悠真の原付はなかった。

パーツが届かなくても勝輝は忙しい。家に戻ってガレージの部品をクリーニングして、それらをまた売りに出すのである。

家に向かう途中のコンビニの横を通ったとき、悠真の原付に気づいた。コンビニの駐車場に入って原付に跨ったまま中を覗くと悠真を発見した。悠真は間もなくコンビニから出てきたが勝輝には気がついていない様子だ。

フルフェイスのヘルメットを被ったまま駐車場から悠真を呼んだが気づいてもらえない。

悠真の手には小さなコンビニ袋に金封のようなものがチラリと見えた。「おい!悠真っ!」もう一度呼んだがやはり気がついてもらえず悠真は原付に乗って走り去ってしまった。

「おいおい、なんなんだよこの世の終わりみたいな顔して。音楽でも聴いてたのか?俺を無視して行きやがって。急いでるのか?」

仕方がない、追いかけようと思ったが、今日やるべき事をやるために家に帰った。

通夜

家に帰ると様子がおかしい。プレハブ小屋と母屋の間のガレージに車が2台キツキツに駐車されてる。

「親父のヤツ、客を呼ぶからって可愛い俺の部品たちを片付けちまったんだな」

それにしてもこんなに客がくるのは珍しい。

勝彦は真面目で無口。ザ親父という感じで趣味は野菜作り。まだ50代だというのに現役を引退した人のような雰囲気がある。友達もいるにはいるのだが、何人も集まって何かをやるようなタイプの人ではなかった。こんなに人が集まるのは正月くらいのものだ。

不思議に思っていると母屋の方に人が集まっていることに気づいた。みんなが神妙な顔つきである。というか、みんながみんな、真っ黒な服を着ている。

「えー?なんだ、なんだ?これから誰かの葬式に行くのか?」母屋のリビングに向かうと線香の香りが鼻をついた。

葬式に行く前に線香を焚く必要があるのか?と不思議に思ったが、中を見て察した。ウチで通夜が行われているのである。

すっかりいつもと違う様子のリビングの奥には花やお供えが丁寧に飾られていた。すぐ近くにはぼうっとした顔で母君子が座っていた。

「母さん、いったいなんの騒ぎ?」こっそりと聞こうとした勝輝の声は君子には届いていなかった。空っぽの様子の君子は時間を止めたかのように固まったままだった。

「っていうかさぁ、俺にも教えといてくれよ。で、誰のお通夜なんだよ」

棺の中を覗き込むと、棺の中には自分が寝ていた。鼻には綿を詰められて、棺の中は花が敷き詰めてある。

「うわーー!」

思わず大声をあげて腰を抜かした。

「な、な、な、なんで俺が入ってるんだよ!?」

漫画のように尻もちをついたまま勝輝は君子に向かって叫んだ。「母さん、何なのこれ!?」君子に声が届いている様子はなくハンカチを握ったまま動かずにいた。そこに勝彦がやってきた。

のそのそとリビングに入ってくるなり座っている君子の肩にそっと手を添えた。2人とも何も言おうとはしない。

「親父!なんなんだこりゃ、ふざけるなよ。こんなことやって何の意味があるんだ、気持ち悪ぃーなぁ!」

勝彦に向かって叫んだ勝輝はすっと立ち上がって勝彦の腕を掴もうとした。しかし、勝輝の手は勝彦の腕を掴めなかった。磁石の反発力のようにグニグニと跳ね返され、勝彦に触れられない。

何が起きているのかわからなかった。突如カミナリに打たれたような電撃が頭の頂点から足先に抜けるように駆け抜けた。

瞬間、景色が歪んだ。

――思い出す。今朝、いつものようにパーツショップに立ち寄ったことを…

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