19:記憶の答え合わせ
漁港のすぐ横にある公園、屋根付きのテーブル席。
海斗、湊、瑠璃、結衣の四人は、まるで宿題を一緒にやった日の続きのように、そこへ集まっていた。
昨日拓真と二人で話していた結果がどうなったのか、ワクワクした様子の海斗と湊と瑠璃。三人は結衣から語られる言葉を待った。
この日も漁港の陽射しは強く、風は穏やかでいつもの海の匂いがしていた。
結衣は目を瞑りふっと一呼吸置いてから、指輪のケースを取り出してテーブルの上に置いた。
「あれ?瑠璃にあげた指輪だ。どうして結衣が?」
「あれ?どうして結衣が!?」
驚く海斗と瑠璃の様子を何のことだかわからない湊がキョロキョロとしていた。
「瑠璃と同じエコバッグを持っていたから荷物がごちゃごちゃになって私の方に紛れ込んじゃったのよ」
結衣はそう言ってから続けた。
「今日みんなに集まってもらったのはこの指輪のことで話があるからなの」
なんだか話の運びが思っていた内容と違う…。緊張感が漂う。
海斗は思わず聞いた。「その指輪…。なんかあったのか?」
「釣り上げた遺留品に触ると記憶が蘇ってくるってこと、ここにいるみんなはもう知ってると思うんだけど…」
指輪のケースを開けて中身をみんなにみせた。
「昨日の夜この指輪に触ったらとんでもないことになったの」
「実は昨日の夜、ほとんど眠れなくて…でも瑠璃に話さなきゃって思ったの。瑠璃だけじゃない、海斗くんや湊くんにも話さなきゃって…」
結衣は瑠璃の話を聞いていたから前世の記憶をすんなりと受け入れることができたが、何も知らなかったらこんなに冷静に話すことはできなかっただろう。
昨晩の出来事のすべてをみんなに共有した。
「ちょっと整理させてくれよ…。じゃあ瑠璃と湊が兄妹で、その母親が結衣だってことか?」
「そうなるわね」
海斗は結衣を見つめながら、普段から母親のように面倒見の良い結衣が、本当に瑠璃の母親だったのだと納得していた。
「俺のお母さんってことになるの?結衣が?」
「そうよ。息子は湊くんで、娘が瑠璃。間違いないわ」
湊は結衣の持ってきた指輪を摘んでじっくりと見たが、何も思い出すことはなかった。
指輪を見る瑠璃の瞳は涙で揺れていた。
今にも大粒の涙が頬を伝いそうだった。
「私、結衣がママでよかった。その指輪覚えてるの。ママがずっと大切にしていたものだった」
記憶が蘇るとき、ビジョンが流れ込んでくるとき、頭がパニックになる。
結衣にも激しい衝動があったことが容易に想像できる。結衣が昨晩の出来事を語るとき、若干声が震えていることに、瑠璃だけが気づいていた。
「その指輪は結衣にあげるわ。結衣に持っていて欲しい」
瑠璃は指輪を返してもらおうとは思わず、むしろ本来の持ち主である結衣が持つべきだと考えた。結衣は両手で優しく指輪を包み込み、小さく頷いてニコリと微笑んだ。
ひょっとしたら指輪の意思で結衣の元へと渡ったのかもしれない。
三人の過去の記憶をすべて紡ぎ合わせると、過去に起きていたことの輪郭が浮き上がってくるようだった。
家族は海に遊びにきていた。ペンダントは娘、ブレスレットは息子、指輪は母親が所持していた。海で何らかの事故に遭ってしまい、娘は溺れて死んでしまう。母親も溺れて死んでしまう。娘は小学生で瑠璃に生まれ変わり、兄は湊へ、母は結衣へと生まれ変わった。
記憶が蘇る瞬間はパニックになったり、身体的に衝撃が走るが、怪我や後遺症はなく、呪いなどもない。
ペンダント、ブレスレット、指輪、三つとも海斗が海から釣り上げたものだが、海斗が触っても何も思い出さないし、何かが起こる様子もない。
「考えれば考えるほど不思議だわ。なんで海斗くんは遺留品を釣り上げちゃうのかしら?」
結衣は、海斗がずっと胸の奥に支えているざわつきを、素直に言葉にしてきた。
「そうなんだよ…。不思議なんだよなぁ。何で俺がお前達の前世の遺留品を釣り上げちゃうのか…。俺も知りたいよ」
海斗は普通に釣りをしているだけで特別なことは何もしていない。
大きな魚を釣り上げるために、夏休みの間は時間の許す限り釣り場に向き合おうとしていたのだが、魚じゃないものがいろいろ釣れてしまう。
「また何か釣れたら私に見せて。もっと思い出せることがあるかもしれないし」
今のところ、鮮明にあれこれ思い出す瑠璃は他の遺留品に興味があった。もし他にも何かが釣れるなら、どうして溺れたのか、家族のみんなはどうなったのか、いろいろなことが思い出せそうな気がしていた。
今ではすっかり前世の記憶を受け入れて自分のことのように考えている。
「うん。まぁ何か釣れたらお前達に見せるようにするよ」とは言ったものの、航でさえもアクセサリーを釣り上げたことなんてないのだから、また何か釣れることなんて無いかもしれない。
湊はすっと立ち上がって海の方を見た。
「じゃあ今から他の遺留品を釣ろうぜ」
湊は堤防の方を指差して言った。
「釣ろうぜって、おまえなぁ、狙って釣れるもんじゃないんだってば!」
「ま、いいじゃない。海斗くんがどうやって釣りをしているのか、私も見てみたいわ」
結衣は海のほうを見つめた。
「できれば父親の手掛かりになるものを釣って欲しい…」
結衣が呟くと瑠璃が応えた。
「結衣もそう思う?前世の事故の日、パパもいたはずなんだよね。家族四人で海に来てたから。絶対一緒にいたはずなのに、パパのことがあまり思い出せないの…」
うーん、困った。できれば父親の手掛かりか…。そんな都合よく釣れないよ、絶対。
「ま、手掛かりを釣るのは一旦置いておいてだな、普通にみんなで釣りでも楽しもうぜ。魚が釣れると楽しいぞ」
海斗は湊のほうをちらりと見た。湊は今にも堤防の方へ向かって行きそうだった。
「湊!釣竿!俺2本しかないから、湊の釣竿も持って来てよ」
「あーそうか、そうだよな。ちょっと待ってて、とってくる。海斗の自転車借りていい?」
快く自転車の鍵を渡すと湊は颯爽と釣竿を取りに家へと向かった。
海斗はいつもの堤防ではなく、貸しボートのある桟橋の場所を釣り座にした。
「ねぇ、海斗、ここって入っていいの?」
瑠璃は海斗のライチョウを携えて質問した。
「あぁ、この桟橋は漁師仲間のおっちゃんが貸しボートを管理する場所で一般の人は入れない場所なんだけど、俺は漁師仲間だから関係者として中に入ることが許されてるのさ」
人手の足りない時にはおっちゃんの手伝いでアルバイトをすることもあれば、航について行って漁の体験をさせてもらうこともある。
「周りに人がいないからやりやすいわね。あっちの堤防はすごい人が多かったわ」
結衣は釣りなんてしたことがない。
ガチの格好で本気出して釣りをしている人もいる中、初心者を交えた高校生四人グループで釣りをするにはちょっと…。気が引けてしまう。
堤防は休日になるととても混み合っていた。
すぐに釣竿を持って戻って来た湊は結衣の釣竿も持ってきてくれていた。
「釣りをするにはあまりいい場所とは言えないけど、初心者が釣りを教わるにはいい場所だよ。俺も海斗と航くんにここで釣りを教えてもらったのさ」
湊が釣竿を持って来てくれたので、全員釣竿を持つことができた。
かくして四人の普通の釣りが開始された。
著者コメント
全26章あります。コメント残していただけるととても励みになります。
是非、楽しんでいってもらえたらと思います。
応援よろしくお願いします。



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