18:結衣の記憶
結衣は一人、ベッドの上で枕に顔を埋めて今日の出来事を思い出していた。
「拓真くん、次の試合頑張ってね。これよかったら使ってね」
そう言ってシミュレーションどおり、重くならないように軽くプレゼントを手渡した。
拓真は何も躊躇することなく「ありがとう」と言ってそのプレゼントを受け取ると、思いもよらない返事をしてきた。
「結衣、次の野球の試合でもし勝てたら、俺と付き合ってくれ!」
拓真らしいド直球の告白に結衣は驚いたが「うん…」とすぐに返事をした。
さっきの出来事を頭の中で何度も何度も繰り返していた。
家に帰ってきて、今になって考えてみれば、”別に試合に勝っても負けても付き合うってことでいいんだけどなぁ”と思った。
“なんならあのときに、私も告白して今日から付き合ってもいいくらいなのに”
浮かれた結衣は次の試合で拓真が勝つかどうか、そのことで頭がパンク寸前だった。
まだ渡してなかったお菓子類を試合の前に渡してあげようと、いったんエコバッグを整理した。その中から瑠璃の指輪ケースが出てきた。
結衣と瑠璃はお揃いのエコバッグを使っていたので何かの拍子に瑠璃の指輪が結衣のエコバッグに紛れてしまったようだ。
慌てて出かける準備をしたから仕方がない、明日にでも瑠璃に返してあげよう、そう思って指輪の箱を手に取るとケースがうっすらと白く光ったように見えた。
結衣は気のせいかと思ったが中身が入っているのか気になったので、箱を開けてみた。そこには確かに先日見せてもらった指輪が一つだけ、きちんとはまっていた。
瑠璃の家で見た時から感じてはいたが、指輪は強烈な引力を放って結衣を魅了した。
結衣は指輪に逆らうことができなかった。
吸い込まれるようにそっと指を伸ばして指輪のトップ部分に触れてみた。
瞬間、バチンと静電気のように指に激しい衝撃を感じた。
「うっ…。何、これ…。息が…」
結衣は触れた指を離すことができなかった。そして、指輪から目を逸らすことができなかった。
「息ができない…」
結衣の身体は硬直したまま、息ができず身体中が痺れるような感覚に襲われた。
空気は静まり返り、結衣の世界の音のすべてが消える。目の前が真っ白になり視界が閉ざされる…。
「ええ、とっても似合うわ。それ、私がこの指輪とセットでずっと大事にしてたんだから大切にしなさいよ」
「ねぇ、もしかしてイルカとか見えたりしないかしら?」
「ダメ、あの子は泳げない…」
指輪に触れてから時が止まっていたように感じてしまった。
結衣にも見えてしまった過去のビジョン。
ハッとして気がつくと指輪は優しく結衣を見つめるように輝いていた。
「私、瑠璃のママだったんだ…」
過去のビジョンで見えた家族の様子。途切れ途切れの映像の中に見えた自分の娘は、瑠璃に間違いなかった。
お揃いのデザインの指輪とペンダント、その一方のペンダントを娘にプレゼントしたことを思い出した。
夫が操縦する船に乗っていたが、娘が海に落ちて溺れてしまった。
瑠璃が語った前世の記憶の内容と合致し、何一つ否定する要素は見当たらなかった。
ただ、瑠璃が語らなかった出来事を結衣は思い出していた。
溺れて死んでしまったのは瑠璃だけではなかった。
助けに向かった母親--
結衣の前世も溺れて死んでしまっていた。
そのことを思い出した結衣は、大量の涙が流れ落ちるのを止めることができなかった。
著者コメント
全26章あります。コメント残していただけるととても励みになります。
是非、楽しんでいってもらえたらと思います。
応援よろしくお願いします。



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