夏の海風と記憶釣り(12:釣竿の力)

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12:釣竿の力

海斗はベッドの上で天井を眺めながら一人考えを巡らせていた。

自分の部屋は普段と変わらず、この日の朝も昨日と同じように陽射しが差し込んでいた。

瑠璃のペンダント、湊のブレスレット、それぞれ不思議な力があるのはよくわかった。もちろん前世の持ち主ではない海斗が触っても何も反応しなかった。でも、立て続けに遺品を釣り上げるって、なんか変だよな。

海斗は違和感を感じていた。

今までの海斗の人生で海の中からアクセサリーを釣り上げたことなんて、一度もないのだ。

海斗はベッドから起き上がって着替えを済ませ、歯を磨きながら思いついた。そうだ、今日は航くん暇してるかな。

海斗は航に釣りのことをいろいろ聞いてみようと思った。もちろん、瑠璃と湊の前世のことについては秘密にしておくつもりだ。

航にメールを送ると今日は休みで家にいるから、いつでもOKということだった。

去年まで暇さえあれば二人で釣りばかりしていた。

航が働き始めてからは、なかなか前のように頻繁に遊びに行くことができなくなっていた。

「海斗ー、来たぞー」

「あぁ、上がって上がってー」

航は海斗の家の隣に住んでいて幼馴染ではあるが、家に入るときは必ず許可を取ってから入ってくる。湊は瑠璃の家に勝手に入ってくるようだが、兄妹だと思うとそれも違和感はないように感じる。

「どう?大物は釣れてるか?」

航は海斗に尋ねた。

「全然。航くんと行って以来、魚が釣れてないよ。最近は魚じゃなくて変なものが釣れちゃうんだよ」

「なんだよ、変なものって?」

「それがさぁ、ペンダントとかブレスレットが釣れたんだよね。もうあげちゃったんだけど」

「へぇ、珍しいこともあるもんだな」

海斗は航に聞いてみた。

「ねぇ、航くんってアクセサリーみたいなものとか釣れたことある?」

「いや、全然ないよ」

やはり航はアクセサリーのようなものは釣り上げたことがないらしい。魚以外のものといえば、海藻、草、枝、釣りの仕掛け、ビニール袋。どれもこれもゴミばかりだ。

「ゴミ以外で言えば、誰かが根掛かりさせたルアーを釣り上げたことはあったなぁ。使えるものが釣れるなんてことは、まぁ、ほぼ無いね」

航の経験からしてもアクセサリーを釣り上げるなんてことはそうあるものではなかった。

「航くんさぁ、これまだ見せてなかったよね?」

そう言って海斗が布の袋から取り出したのは父の釣竿、フェニックスだった。

航はフェニックスを見て硬直しているようだった。

「これ、お父さんが使ってた釣竿なんだってさ。この前、蔵から発見してフェニックスって名付けたんだ。コイツでアクセサリーを釣り上げたんだよ」

父の形見の竿だとアクセサリーを釣り上げられるのだろうか。

胸の奥が静まるような思いで航の意見に耳を傾けた。

「ヤバ、激アツ…。凄い良い竿じゃないか」

航は一目見ただけで、その竿が良いものだということを見抜いた。二十年前のものでも何不自由なく使えている確かな竿だ。

「その竿は、かなり古いタイプのものだね。だけど、性能というか、特性は海斗が持っているライチョウよりも優れていそうだな」

海斗は一瞬でフェニックスの良さを見抜いた航に心底驚いた。

「流石、航くんだね」

当たり前の話だが、釣具は現代モデルのほうが圧倒的に性能が高い。

「釣具に使われる材料はさぁ、しなやかさと剛性を兼ね備えた材料が日々進化しているんだよね。特にカーボン材の進化は凄まじいよ」

航は続けた。

「金属もまた同じで剛性や耐久性はそのままで軽い材料が使われるようになってきている。それにも関わらず、古いのに性能が良い物というのは、細かな金属部分に今では使われないような合金が使われていることがあるからさ」

海斗は航の知識量に驚きつつも真剣に聞いている。こうやって、いつの時も航に仕込まれてきたのだ。

「今では考えられないような人件費を費やして作り上げる工法で、職人技術で精度が抜群に作り上げられていることもあるよな」

航はそれらを一瞬で全て見抜いてしまったのだ。

「ライチョウとフェニックスを両方持ってごらん?」

海斗は航に促されるまま二本の釣竿を持った。

「どっちが軽い?」

航が尋ねると海斗は驚いた。

「フェニックスの方が軽い!フェニックスの方が長いのに!」

航は一言だけ「だろ?」と言って、得意げにニヤついた。

「じゃ、次は2本とも持って外に行こう」

海斗はまた航に言われるがまま二本の釣竿を持って外へ出た。

「だいたい同じくらいの力で振り抜いてごらん?」

航に言われて、海斗は二本の竿を交互に振り抜いた。ビュンッビュンッと何度も風を切る。

「フェニックスの方が鋭い音がするね」

「あぁ、わかるだろ?フェニックスの方が竿の張りが強いのさ。キャストした後の振動が収束しやすくって、感度が高い」

なるほど、確かにそんな手応えを感じながら海斗は聞いた。

「フェニックスの方が良いってこと?」

「いや、そう単純でも無い。フェニックスとライチョウは特性が違うのさ。フェニックスを使う時は硬くてしなりにくいから、ルアーの重みを十分に乗せて、しなりを意識して投げたほうが飛距離がでる」

海斗は航の目を見てうんうんと頷いた。

「感度がいいからルアーや仕掛けを意図した通りに操作できる」うんうん。「つまり、どゆこと?」

「遠くにぶん投げて大物が狙えるってことさ」航はフェニックスの良さの全てを海斗に詰め込んだ。

著者コメント

全26章あります。コメント残していただけるととても励みになります。

是非、楽しんでいってもらえたらと思います。

応援よろしくお願いします。

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