夏の海風と記憶釣り(11:兄と妹)

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11:兄と妹

鳥の声で目覚めると海斗は自分の部屋の窓を開けた。

昨晩は湊の部屋で夜遅くまでブレスレットを調べていたが、その後自分の部屋に帰ってくるなり寝てしまった。

湊のブレスレットを瑠璃が見たら何かわかるかもしれない。昨日は夜遅かったので瑠璃を呼び出すことはなかったが、海斗と湊はそんな話をして、その夜を終えた。

シャワーを浴びたら頭もスッキリとした。今朝も晴れ晴れとしていて気持ちがいい。

昨晩の続きを確かめたい。

海斗は湊に電話した。

「おはよー。今日って瑠璃いるかな?昨日の続き、確かめてみないか?」

「そうだな。俺もそう思っていたところ。瑠璃が暇してそうなら声かけてみるわ。海斗どうする?ウチ来る?」

「あぁ、すぐ行くよ」

海斗は湊の家がある丘の方へと足早に歩いて行った。

考えてみれば漁港のすぐ脇にある自宅とこの丘を何回往復しているのか。

夏休みに入ってから毎日行ったり来たりしている。それもこれも、湊と瑠璃の家がお向かいさんだからだ。

二人は小さな頃から家族同士の付き合いで仲が良く、幼馴染だ。

海斗の幼馴染には航がいるが、湊と瑠璃のように男女で幼馴染という関係性のことはいまひとつわからない。

二人の距離感がイマイチ掴めていない部分がある。

午前の陽の光が眩しく、軽い登り坂を上がってくると汗ばむように暑かった。

歩き慣れた道を進み、湊の家に着いた。

湊は玄関前のベンチに腰掛けて海斗を待っていた。

「おぉ、来た来た。早いなー」

「そうか?普通に歩いて来たけどな。調子はどうだ?」

昨晩の辛そうな湊の表情を思い出して思わず尋ねた。

「全然元気」

湊の体調は悪くなさそうだ。

全然元気だと言ってニコッとする湊は、まるでスポーツブランドのCMのように爽やかで、サッカー選手のオフの日のようなカッコよさを漂わせていた。海斗はハーフパンツとTシャツでいかにも高校生の夏休み的な姿だった。

「今日瑠璃、暇してるかなぁ?」

「さっき呼んだら元気っぽかったよ。降りてくるってさ」

「ふーん、もう呼んだの?」

「うん、海斗が来るちょっと前に呼んだら普通にいたよ」

あぁ、また外から大きな声で呼んだのね。このやりとりがよくわからない距離感の原因の一つだが、湊の場合は海斗の家に来ても大きな声で外から呼んでくるから、普通といえば普通のことだ。

「あのさぁ、お前たちってLINEとかしないの?」

「しないよ。俺、瑠璃の電話番号しか知らないし、LINEの友達登録してないから。わはは!」

海斗は驚いた。俺でさえ瑠璃とLINE交換してるのに湊はLINE友達じゃないのかよ!思わず心の中でツッコミが入る。

「友達登録してもらえよ」

「嫌だよ、だってアイツ別に友達じゃねーじゃん。友達なんだけど、なんつーか…。違うじゃん!今更キモイっていうか、そんな感じでしょ」

「ふーん」

海斗は幼馴染の距離感をまた一つ勉強した気分で、それ以上は特に口を挟まなかった。

他愛のない会話をしていると瑠璃がやって来た。

白いTシャツとブルーのデニムパンツ。それだけの組み合わせなのに、瑠璃が纏う空気はまるで別人のようで、制服姿の時よりもずいぶんと大人びて見えた。肩にかかる髪が光を受けて柔らかく揺れ、夏らしい。

ラフで飾り気のない格好なのに、海斗は目を離せなかった。

瑠璃は海斗を見ると挨拶をした。

「海斗、おはよっ」

「おぅ、おはよう」

二人の挨拶に被せて湊も言った。「おはよーさーん。瑠璃さぁ、お願いがあるんだけど…」

「やだ!」

瑠璃は湊が話すよりも先に断った。

「だって湊のお願いめんどくさそうな気がするぅ〜」

意地悪そうな表情で湊を見たあと、海斗のほうに向き直して笑顔で尋ねた。

「なーに、朝から?」

瑠璃の笑顔が可愛くて海斗は思わずドキっとしてしまった。

「あ…、あぁ、あのな、この前のペンダントを見せて欲しいんだけどさぁ」海斗はそう答えると、昨晩湊とブレスレットを釣り上げてからの出来事を詳細に伝えた。

「えー、なんか怖くない?私のときと同じ気がする」

『だろ?』

海斗と湊は思わず声が重なった。

「だから瑠璃にブレスレットを見てもらいたいんだ」

「うん。わかった。ブレスレット見てみたい!」

もちろん見てもらうつもりの湊は続けて言った。

「じゃ部屋で待ってるからペンダント持って勝手に部屋まで上がって来てくれる?」

「うん、わかった」

海斗と湊は湊の部屋で瑠璃を待つことにした。

二人で並んで胡座で座り、目の前にブレスレットを置いた。もしも湊と瑠璃の二人だけで確かめていたら…。

正直何が起こるかわからなくて怖い。

もし湊がまたクラクラしてしまい、このブレスレットを見た瑠璃がまた変な感じになってしまったら、どう止めればいいのかわからない。

だけど、少なくとも自分が第三者的に様子を見守るのは極めて重要だ。

海斗はそう考えていた。

少なくとも、二人とも記憶が蘇る時に頭が痛くなるとか、感情がコントロールできなくなるとか、予想外のことが起こり得るのだ。

まもなく瑠璃の階段を上がる小気味いい音が聞こえて来た。

瑠璃は湊の部屋に入るなり、湊のブレスレットを見て声を上げた。

「あっ!お兄ちゃんのブレスレットだぁーー!」

瑠璃はブレスレットを見て確かにそう言った。

「瑠璃、これ、見たことあるの?」

海斗が尋ねると瑠璃は答えた。

「ごめん。頭の中がうまく整理できていないんだけど、これはお兄ちゃんのブレスレットで間違いない」

瑠璃の言ってるお兄ちゃんとは誰のことなのだろうか?

「これはね。私の前の記憶なんだけど、お兄ちゃんのブレスレットなの。私、溺れて死んじゃうんだけど、よく覚えてる」

湊は瑠璃の言っていることがなんとなくだが、わかったような気がした。

「瑠璃のペンダントを見せて」

瑠璃のペンダントを見た湊にも記憶が蘇ったようだった。

「あぁ、これ…。見たことある気がする」

湊の記憶の片隅にもペンダントが輝いて揺れていた。

瑠璃はブレスレットの横にそっとペンダントを置いた。

「瑠璃、このブレスレットに触れてみて」

海斗がそう促すと、恐る恐る瑠璃がブレスレットに手を伸ばした。

「あぁ、これ。せっかくお兄ちゃんが大切にしていたのに海に放り出されちゃったんだ…」

湊は優しく兄のような口調で瑠璃へ尋ねた。

「瑠璃、このブレスレットのこと、詳しく教えてくれる?」

海斗は二人を見ながら、危ない状態にならなかったことに安堵した。

「海斗、湊…。信じられないかもしれないんだけど、私このペンダントの持ち主の生まれ変わりなの…」

瑠璃は俯いて続けた。

「海斗が私に手渡してくれた日、昔の記憶が蘇ってきた…」

海斗はあの日の瑠璃の様子を思い出して、尋ねた。

「溺れて死んじゃったっていうのは、どういう意味?」

「うん。前世の私なんだけどね。私たちのよく知るそこの海で、溺れて死んじゃったの」

海斗と湊は真剣に聞いていた。

「最初はペンダントの持ち主の見たものが頭の中に浮かんできたのかと思ったんだけど、違うみたいだった。私は映像でも見えたんだけど、思ったこと、感じたこと、見たことを思い出した…。だから、前世での体験だって気づけたの」

三人はブレスレットとペンダントを見つめていた。

「前世の私は小学生だった。ママから貰ったペンダントを大切だから汚したり傷つけたりしないようにケースにしまっておいた。海に遊びにきた時に持ってきたんだけど、泳げなかった私は溺れて死んでしまった」

「変なこと言ってるよね、私。信じられないだろうし二人は気にしないで…」

二人は全然変なことを言っているとは思わなかった。

湊は言った。

「俺の頭の中に流れてきた映像も前世だったのかも…。このブレスレットを瑠璃そっくりの妹に自慢していた」

海斗は二人が初めてペンダントとブレスレットを手にした時の様子をしっかりと覚えている。

頭の中に前世のビジョンが流れていたとき、明らかにまともじゃなかった。

二人の言っていることは信じるに値する。

「瑠璃、じゃあ小学生だった前世の瑠璃のお兄ちゃんって、ブレスレットの持ち主のことで、湊に生まれ変わったってことなのか?」

「たぶん、そうなんだと思う。ブレスレットの持ち主は前世の私のお兄ちゃんで間違いない」

「なるほど、じゃあ前の持ち主っていうか、前世の俺の映像だったのか。それなら海斗が触っても何も起こらないのも納得だよな」

湊が納得している横で、海斗は再びブレスレットとペンダントの両方を手に取った。

「うん。確かに俺にはなーにも起こらないんだよな」

二人とも今は冷静に話もできて、体調も悪くなさそうで、海斗はそのことが何よりもホッとしていた。

内心、呪いか何かだったらどうしようかと思っていた。

「ま、とにかく、お前達が実は昔、兄妹だったってことで無理やり納得することとして、ブレスレットは湊、ペンダントは瑠璃が持っていてくれ」海斗は誰も疑うことなく区切りをつけた。

二人が前世で兄妹だったという事実に納得しながらも、溺れて死んでしまった前世の瑠璃を想った。海斗は胸の奥で小さなざわめきを感じていた。

「海斗、ありがとう。最初の衝撃が強すぎて警戒していたけど、なんだかこのブレスレット見てると安心する」湊は言った。

「私もこのペンダントは絶対に大切にしなくちゃって…。そう思ってる…」

著者コメント

全26章あります。コメント残していただけるととても励みになります。

是非、楽しんでいってもらえたらと思います。

応援よろしくお願いします。

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