夏の海風と記憶釣り(9:ブレスレット)

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9:ブレスレット

昼間の賑やかさが嘘のように夜の漁港は静かだった。

優しい潮風が心地よく、波もなく、星が空いっぱいに広がっていた。

海斗はもちろんいつもの釣り座に座っていた。父の釣竿のフェニックスに航のブラクリをつけて海に沈めていた。

釣り餌を買わずに来たのでブラクリの針の先に適当に羽とケバ(毛束)をテグスで巻き付けておいた。海の底に沈んだオモリの先に、羽とケバが揺蕩う。ケバを生き物と勘違いした魚が丸呑みにするのを狙った仕掛けだが、この夜、海斗には狙いの魚はいなかった。

こんな穏やかな日は魚が釣れなくても、海にいるだけで気持ちがいい。

海斗は振り返り、岸より向こうに建つ家の二階に灯りがついているのを見た。

昼間、瑠璃は結衣達と一緒にテニスの応援に来ていた。

拓真を応援しに来ていたのだろうか?いや、もともとは湊が出るはずの試合。湊を応援しに来ていたのかな?そんなはずはないか、と思い胡座の姿勢のまま海に向かい直した。

釣竿の先はまったく反応していない。

そういえば、瑠璃や結衣と一緒にいた女子たちは湊のファンだったような気がしてきた。

湊は学年一のイケメンと言ってもおかしくない。中学生の頃には、家族と原宿を歩いていたらスカウトに声をかけられたほどなのだ。ということは、拓真の応援じゃなくて、湊のファン達の付き合いで来ていただけなのかもなぁ。

もしかしたら、湊のファンの女子の中に、拓真の好きな子がいるのだろうか?湊を退けて自分がテニスの試合に出たいって、いったい誰にそんなにかっこいいところを見せようと、張り切っていたんだ?

海斗はそんな昼間の出来事を考えていた。拓真が瑠璃を意識していたとしたら…。

う〜ん、海斗の脳裏をグルグルと巡っていた。

堂々巡りの海斗だったが、落ち着いた波の音が心地よく、いつしかぼうっと海を眺めていた。

「海斗」

海斗を呼ぶ声に振り返ると湊が立っていた。

「おぉ、湊、昼はお疲れさんっ」

「うん。海斗もな。今日は何か釣れてるの?」

「全然」

そう言ってふふっと笑う海斗を見て湊は言った。

「お前ってホント釣りが好きだよなぁ。ははは。さっき、瑠璃が”堤防で海斗が釣りしてるよ”って教えてくれたんだ」

あぁ、そうか、瑠璃が教えたのかと瞬時に納得。

「そうなんだよ、瑠璃の部屋からここが見えるらしい。俺と航くんが釣りをしてると、シルエットでわかるんだとさ」

「そうらしいね。ウチからは堤防が見えないけど、瑠璃の部屋からは見えるんだね。アイツ目よすぎじゃね?」ははは、と湊は笑った。

「なぁ、湊、拓真ってなんで今日あんなに張り切ってたの?」

海斗は思い切って湊に聞いてみた。

「うーん、わかんね。…。わかんねーっていうか、誰が目当てなのか、白状させようと思ったけどアイツ絶対言おうとしないよな。顔を真っ赤にして怒りそうだから、やめた」

確かに怒り出しそうだった。

結局昼間は優勝凄いよ、って話で落ち着いたのだ。

湊は海斗の隣に同じように胡座で座ってから続けた。

「海斗、絶対誰にも言うなよ。俺が言うと調子乗ってるみたいな変な感じになるし、拓真に恨まれそうだし…」

「なんだよ、気になるな。絶対誰にも言わないよ」

「拓真なんだけどさぁ、海斗の家からウチにユニフォーム届けに来るまでの間にクラスの女の子に会ったんだって。んでね、”明日、クラスのみんなでテニス応援に行くんだー。湊くん、試合に出るかな?”って聞かれたらしい」

「うん、それで」

「それで咄嗟に”湊は野球に出るからテニスには出ないよー”って答えたんだって」

その後、大慌てで野球のユニフォームを家に取りに帰ってから、湊に渡しに行ったということになる。

野球をする湊を応援しに来たファンの子から真相を聞いたと言うことだから、間違いないだろう。

「俺にはちゃんと言えよなーって思ったわぁ。ははは」湊は笑っていた。

「じゃ拓真のお目当ては同じクラスの誰かってこと?ってことは、瑠璃じゃないかぁ」

「うん、瑠璃は俺達と同じクラスだから、瑠璃じゃないだろうなぁ。昨日会ったクラスの子は俺の応援に来てくれた子だから、違う」

二人は顔を見合わせた。

「じゃ拓真と同じクラスで他の子かぁ…。結衣か?」

「たぶんそうだと思うけど…。怖くて聞けないのよー」

二人はカッカッカッと笑うと、いつか白状させてやろうぜと、同盟を結んだ。それと、結衣の話が出た時に、拓真に宿題のことを伝え忘れたことも思い出したが、それはまぁいいか。

海斗は拓真のお目当てが瑠璃じゃなかったことに、心の底から穏やかな気持ちになった。

結衣は拓真を気にかけていたから、もしも拓真のお目当てが結衣なら、いい感じだよなぁ。

頭の中のモヤモヤはすっかり消えていた。

「魚も釣れないし、今日は帰るか」

「じゃウチくれば?」湊が海斗を誘った。

「お前もここに来るなら釣竿持って来いよ」

「確かにそうだな。次は持ってくるよ」

海斗はリールを巻いて仕掛けを引き上げようとした。

「なぁ、海斗、お前の釣竿ってどうやって光らせてるの?電池?」

「はぁ?電池なんて入ってないし、光らせてないよ。光ってない」

「あれ?おかしいな。光ってるように見えたけど」

湊には海斗の釣竿が光って見えたようだった。

「おっ?なんかついてるっぽくない?」

湊が言ったが、そんなはずはない。

「今日はケバだけで餌をつけてないから何も釣れてないよ。アタリも感じなかったし」

そう言いながら巻き上げるとブラクリの先に何か輪っかがついていた。

「なんだこれ?」

海斗は海藻かゴミか何かがついたと思って堤防にあげた。

小さく振って落とすとチャリンと音を立てた。金属のようだった。

「なんだこれ?」

手に取ってみてもまだなんだかわからない。

海斗は釣具の中からブラシを出すとバケツの海水の中でゴシゴシと洗った。

バケツの中で洗うと、銀の表面に模様が刻まれているのが見えた。シルバーアクセサリーの刻印が浮かび上がった。銀色に光る輪っかは男性が身につけるようなブレスレットのようだ。

「湊、これなんだかわかる?ブレスレットみたいだ」

タオルで簡単に水気をとると湊に投げ渡した。

光の角度で淡く青く光る。

まるで海の底で長い時間を過ごしてきたように。

湊はブレスレットをキャッチした。その瞬間湊は前のめりにグラっと揺らぎ、ブレスレットを持ったまま片膝をついてしまった。

「おい、湊!どうした!?」

湊は片膝をついたまま苦しそうに一言だけ声を発した。

「これ、なんだ…?」

海斗は焦った。

瑠璃にペンダントを渡した時と同じような反応だった。

湊も訳のわからない事を言って泣き出すのか?海斗は慌ててしゃがみ込み、湊の顔を覗き込んだ。

「海斗、これやばい。ちょ、一旦返す」

ブレスレットは海斗の手に戻されたが何もヤバくはない。何も起こらない。海斗は不思議な気持ちで湊に尋ねた。

「おい、何があった?どうした?これ、何がヤバい?」

「ごめんごめん…」

湊は頭を手で押さえながら顔を上げた。

頭の奥で、誰かの記憶が一瞬だけ爆ぜたような衝撃だった。

「頭が割れるかと思った…。くっそ痛ぇ〜」

相当辛そうな表情だが泣いてはいない。

「それ、キャッチした瞬間、頭に衝撃がガツンと来た」

「え?ヤバくない?これ?」

「間違いない。ヤバいよ、それ。前の持ち主の記憶が流れ込んでくる」

やっぱりおかしな事を言い出した。でも瑠璃のときより湊の方が冷静なようだ。

「前の持ち主って何だよ、気持ち悪いな」

「うん、ごめん。俺も気持ち悪い。前の持ち主が一瞬頭の中に見えちまった」

そんなことあるか?

海斗はブレスレットを耳元に当てたが音は何もない。匂いを嗅いだが海臭いだけだ。見つめても何も感じない。

「一旦戻って落ち着こう」

「そうだな。海斗、そのブレスレット、絶対失くさないで持っててくれ」

「うん、わかった。何これ?怖いんだけど、呪い的なヤツか?」

「いや、そういうのじゃないと思う。前の持ち主が手首にはめてるシーンが頭によぎってきた」

湊は頭を抑えたままゆっくりと歩き出した。

海斗は湊が取り乱さないで少し安心したが、前の持ち主の記憶が頭に流れたと言う湊のいう事をただ信じるしかなかった。

湊の様子は演技でも冗談でもなく、本当に辛そうで疑う余地は微塵もなかった。

著者コメント

全26章あります。コメント残していただけるととても励みになります。

是非、楽しんでいってもらえたらと思います。

応援よろしくお願いします。

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