夏の海風と記憶釣り(13:航との釣り)

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13:航との釣り

海斗と航は釣竿を持って漁港へとやってきていた。波は穏やか、夏の陽射しは暑いが海を見るといくらか涼しく感じる。

航がなんの気もなしに仕掛けを海に投げ込んだ瞬間、ブルブルと竿先が揺れた。

航は「マジで?」と一言だけ発して糸を巻き取ると、二十センチ程の良サイズのタカベが釣れた。

「海斗、今日は爆釣かもしれない。仕掛け入れた瞬間釣れるぞ」

航に言われ海斗はライチョウにサビキ仕掛けをつけて海に沈めた。

瞬間、ライチョウはクンとしなり海斗の竿のラインが走った。

スパッと釣り上げると航と同じほどのサイズのタカベだった。

「ホントだ。今日は入れ食いだね!」

海斗と航はいいサイズのタカベをバンバンと釣り上げていった。

海斗も航も二十匹以上の釣果となった。

海斗も航もタカベばかりこんなに釣れるとは思っておらず、魚を持ち帰るために用意した簡易なクーラーはすでにいっぱいだった。

「大漁、大漁、こんなに釣れるのは珍しいね」

「そうだな。食べるぶんはもちろん、余りは冷凍保存しておこうかな」

海斗も航も釣った魚やイカやタコが冷凍庫にいっぱい入っている。この日のタカベも何匹かは冷凍庫行き確定だ。

「海斗のライチョウは相変わらず調子が良いな。タカベはもう十分だからフェニックスに持ち替えてみたら?」

航はそう言いながら自分はすでに長いショアジギングロッドに持ち替えていた。

いつの間にか陽は傾き、夕暮れどきを迎える時間帯に差し掛かっている。

海は昼から変わらず穏やかだった。

航の用意した竿はメタルジグという魚の形をしたルアー(擬似餌)をつけて、沖のほうへ遠投するルアー釣りのセットだが、まだルアーをつけていない。

「航くん遠投?大物狙い?」

「いや、ルアーは疲れるから、ぶっ込み釣りさ」

ルアー釣りは遠投した後リールを巻きながらルアーを泳がせて魚を食いつかせる釣りなので、投げると巻くの繰り返し。それに比べてぶっ込み釣りは餌をつけて遠投したら、あとはじっと待つだけ。

何が釣れるかはお楽しみなのだ。

航は針にイソメ(生き餌)をつけると勢いよく遠投した。

竿はしなり、糸は勢いよく放出された。その先端についたオモリは数秒後に沖の遠くのほうで小さくボチョンと音を立てて沈んだ。

航はリールのベイルを戻してワンアクションでリールを巻いて素早く糸ふけをとると、竿を持ったままじっと海を見つめていた。海斗は航の横顔を見ながら自分も遠投した。

フェニックスに例のブラクリをつけて、餌は航と同じイソメだった。

「俺が言った通りだろ?フェニックスだとよく飛ぶだろ?」

「そうだね。ぶっ込み釣りの用意がなかったから航くんにもらったブラクリをつけたんだけど、ホントよく飛ぶ」

飛距離を比べたわけではないがライチョウではこんなに遠投できない。やっぱり竿の特性が違う。

ぶっ込み釣りは海底に沈んだ餌に魚が食いつくまでじっと待つ釣りだ。

二人は竿を持ったまま海を見つめていた。

陽が沈んで海が真っ赤に染まる頃、航の竿先がククッと揺れた。直後、リールのドラグがチチチチチッと鳴り響いた。

「きたぜー!」

航は竿を立てるとリールを巻き始めた。

海斗はグングンとラインを引き込む魚と、リールを巻き上げる航の攻防を横で見ていた。

「結構大きくない?」

「あぁ、真鯛だ」

航は魚の動きで先端に何が付いているのかがわかってしまう。

「真鯛!?すげぇ、絶対釣ってよ!」

「あったりめぇだ、逃すもんか!」

海斗はフェニックスを一旦置いて、玉網を用意した。

航が真鯛の顔が見えるところまで引きずり出したら、網で掬うための準備だ。二人の息はピッタリだ。

目前十メートルまで迫ると真鯛は水面で夕焼けのように赤いボディをバシャバシャと激しくバタつかせた。

真鯛が次第におとなしくなった頃合いで、航は堤防の壁面まで真鯛を引き寄せた。そのタイミングで海斗が玉網を入れてサッと真鯛を潜らせる。

見事に真鯛は堤防の上に引き上げられた。

ふぅと一息ついた航は「ちょっと小さめだな」と言ったが、釣り上げて満足げな笑みを浮かべた。

「やったね」無事に釣り上げて海斗も満足気だった。

夕日に照らされた真鯛のすぐそばで陽の光を静かに反射するようにフェニックスが輝いていたが、二人は真鯛の確保に夢中で竿の輝きには気が付かなかった。

「今日はもう終わりにしよう」

タカベも十分釣れ、航が真鯛を釣り上げたことでさらに満足した海斗は、今日の釣りに区切りをつけた。

「そうだな、帰るか。ギリ四十センチってところだな。でもこのくらいのサイズが一番美味しいのさ」

航はタカベが入ったクーラーボックスに真鯛を優しくしまった。

海斗は何も魚がついていない自分の釣竿を持ってから、リールを巻いて糸を手繰り寄せた。

「ん?どした?」

航はフェニックスの竿先を見て違和感を感じた。

「うーん、何かついてるかも?」

海斗はリールを巻きながら、なぜか心の奥がざわついた。フェニックスの竿先が、まるで何かに導かれるように海底の一点を探っていた気がした。

「こりゃ魚じゃないね」

航がそう呟いたが海斗は無言のまま真剣に糸を全て巻き上げた。

そこには小さな四角い箱が絡まっていた。

「あちゃー、なんだこれ?なんでこんなぐちゃぐちゃに絡まるかなぁ。わはは!」

海斗はぐちゃぐちゃに絡まった小さな箱を糸にぶら下がったまま航に見せた。

「海斗は珍しいもんよく釣るよな。なんだこれ??」

絡まった糸を解くとそれはアクセサリーを入れる小さなケースだった。

サイズからして、指輪を入れるケースだ。

海斗が無造作にパカっと開けると中には指輪が一つはまっていた。またアクセサリーを釣ってしまった。

海斗はピンときた。

この違和感。

普段ならかかることのないアクセサリー…。これもきっと瑠璃や湊の前世に関係あるものに違いない。

「航くん、指輪だよ。これ、何か見覚えあったりしない?」

「んー…。全然わからない」

航は指輪をちょんとつまんでマジマジと眺めてみるが、何も感じないようだ。海斗は少し警戒しながら航のもつ指輪をちょんちょんとタッチした。

別に何も起こらない…。

安心して航からつまみ取るとマジマジと指輪を眺めた。

「あ!」

「どした?」

「瑠璃のペンダントとデザインがそっくりな気がする…」

その指輪にはターコイズがあしらわれ、銀細工には瑠璃のペンダントと似た装飾が施されていた。

指輪は夕焼けに反射してキラキラと輝いていた。

著者コメント

全26章あります。コメント残していただけるととても励みになります。

是非、楽しんでいってもらえたらと思います。

応援よろしくお願いします。

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