短編:いい夢を見る方法

スポンサーリンク

※当サイトはアフィリエイト広告を利用しています

「ねえ、いい夢を見る方法、知ってる?」

夕食後の団らんの時間、息子が突然そんなことを言い出した。あと数日で八歳になる彼は、最近少し大人びた口調を覚え始めた。

「えっ、教えてよ。どうすればいい夢が見れるの?」

私は思わず聞き返した。子どもが言う“いい夢の見方”というのが、なんだか可笑しくて、そして少し興味深かった。

彼は真面目な顔で、スプーンを置いて語り出した。

「その日あった、楽しかったこととか、うれしかったことを思い出しながら寝るんだよ。そうすると、夢の中でも似たようなことが起きるんだ

まるで長年の経験から得た人生の知恵を語るようなその口ぶりに、私は少し驚いた。普段はパズルゲームの話ばかりしているくせに、今日はなんだか哲学者のようだった。

「じゃあ、どんな夢を見たの?」

私は、息子の“いい夢”に少しだけ嫉妬して、そう尋ねた。

彼は目を輝かせながら答えた。

「プラモデル屋さんに行ったときのことを思い出して寝たんだ。欲しかったガンダムのプラモがあって、それを買えてうれしかった。そのことを思い出しながら寝たら、夢でもプラモデル屋さんに行って、すごいプラモがいっぱいあって……その中で一番欲しかったプラモデルが奇跡的に買えたんだ!」

彼の話を聞いて、私は笑いながらも、なぜか胸の奥がじんわりと温かくなった。

思えば大人になると、寝る前に考えるのは仕事のことや、心配事や、明日の段取りばかり。楽しかったことなんて、ゆっくり思い出す時間もない。

「じゃあさ、今日も楽しかったこと、何かあった?」

そう聞くと、彼は少し考えてから、

お母さんがくれたプリンが、おいしかった。あれ、また明日も食べたい」

と照れたように笑った。

その夜、私は彼の隣に寝転がって、今日の楽しかったことを一緒に思い出してみた。

何気ない夕食の会話、笑い合ったこと、プリンを一緒に食べたこと。

目を閉じて、そっとその余韻に浸った。

どんな夢を見たかは覚えていない。でも、朝目覚めたとき、私は確かにいつもより少しだけ、心が軽くなっていた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました