夏の海風と記憶釣り(26:エピローグ)

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26:エピローグ

六人揃っての豪華なグランピングは、あっという間に終わりの時間だった。

「海斗くん、何から何まで準備してくれて、ありがと」

結衣は海斗にお礼を言った。

「海斗、ありがとな」「海斗、またみんなで集まろう。それと、俺の代わりにバイト頑張ってくれてありがとう。結衣と付き合えたのは、海斗のおかげだよ」

湊と拓真も、結衣に続いてお礼を言った。

「また休み合わせるから、誘ってくれよな」

航はみんなにそう言うと、一番先に帰っていった。

その他のメンバーは漁港の公園で「またね」と、軽い挨拶だけして解散となった。

湊と拓真と結衣と数メートルだけ距離をとった瑠璃は、海斗にだけ聞こえるようにそっと囁いた。

「海斗、連絡して。待ってるね」

海斗は瑠璃と目を合わせてニコッと微笑みながら頷いた。

穏やかな8月20日は六人で一晩過ごし、8月21日になっても、変わらぬ絆で繋がっていた。

みんなと解散した後、桟橋にいるおっちゃんに鍵を返しに向かった。すると、桟橋におっちゃんが出ていたので、海斗はお礼を言って、直接おっちゃんに鍵を手渡した。

「おっちゃん、今日はいったい何してるんだい?」

「散骨さ」

「散骨?」

おっちゃんは陶器の壺を持っていて、カサカサと音がしている。中は骨のようだ。

「ふーん、海に散骨するのかぁ。悪くない気はするけど、いったい誰の骨なの?」

おっちゃんは晴れやかな夏の陽射しのように、明るく元気な表情で海を見つめていた。

「この骨はな、愛犬の骨さ。頑張ってたんだけど、ついこの前死んじゃったのさ」

おっちゃんはゆっくりと壺の蓋を開けた。

「犬の骨だったんだ。お墓に埋めたりするんじゃないの?海なの?」

「ふふふ、お前は最近とてもよく頑張っているから、いいことを教えてやるよ」

おっちゃんはニヤリとして海斗を見つめた。

「この海はな、昔から、不思議な力で守られている。俺の親父はな、この海で溺れて死んでしまったご先祖様の”生まれ変わり”だったんだよ」

海斗はドキリとした。瑠璃達と同じだ。

「親父は漁の網に紛れ込んで引き上げられた、小さな石の地蔵に触った瞬間に、ご先祖様の記憶をぜーんぶ思い出したんだと」

なんだって!?

あの不思議な現象は瑠璃達だけじゃないってことなのか?

「親父はそのことを家族や友人に話したが、誰一人として親父を信じる人はいなかった」

確かに話だけ聞いても信じることができないのは、わかる。記憶が蘇るそのときに、実際に立ち会わなければ、信じることなんてきっとできないだろう。

「だけどな、唯一、俺は親父の話を信じたのさ」

おっちゃんは海の沖の方をジッと見つめていた。

「俺は初代の愛犬が亡くなったとき、悲しくて悲しくて、いつまでもその骨を手放せなかった」

海斗は黙っておっちゃんの話を聞いていた。

「俺はいつまでも悲しんでちゃダメだと決心して、愛犬の骨を海に散骨した。そしたら、その半年後、二代目の犬が俺の元にやってきた」

おっちゃんは初代の愛犬に想いを馳せているようだった。

「犬種が違うのに、初めて俺を見つけた瞬間から俺の傍から離れなかった。俺はその犬をなんとか譲ってもらって、一緒に暮らし始めたんだ」

「そう、それだけじゃ生まれ変わったなんてわからない。一緒に暮らし始めて驚いた。その犬は好きな食べ物、仕草、寝るときの癖、何から何まで初代の犬と一緒だった。それどころか、トイレの場所や散歩のコース、ホクロの位置。全部同じだったんだ」

海斗は犬の生まれ変わりを疑わなかった。

あり得る。十分に起こり得ることだ。むしろ生まれ変わったと信じる方が自然。

「俺は、初代の犬をシンヤと名付けて”シン”って呼んでいた。二代目の犬は”シンジ”三代目の犬は”シンタ”コイツさ」

おっちゃんは陶器の骨壺を海斗に見えるように顔の位置まで持ち上げて、ニコッと微笑んだ。

「シンヤもシンジもシンタも、全てが何もかも完全に一致。流石に三世代続いてしまったら、もう信じるしかない。この海は命を生まれ変わらせる不思議な力があるのさ。犬は人間と違って十年そこそこで死んじまう。けど生まれ変わってくれるから、寂しくないのさ。四代目もきっとすぐに生まれ変わって、幸せに暮らせるはずさ」

「おっちゃん…」

「あぁ、そういうことだよ。海斗のお父さんは、お前が悲しんだり寂しがったりする必要なんてないのさ。だって、すでに海の中じゃなくて、どこかの誰かに生まれ変わってるんだから」

おっちゃんは”シン”の骨をサァーッと海へと撒いて、その運命を一旦海へと預けた。

「おっちゃん、ありがとう。最近いろいろあって、俺もちょうど同じようなことを考えてたんだ。昨日も父さんのお墓を磨きながらね」

海斗の胸にはおっちゃんの話がすっと入り込み、自分の身の回りに起こる不思議な出来事も、父の生まれ変わりも、全て受け入れて優しい気持ちに落ち着いていた。

きっと父さんも、とっくの昔に生まれ変わってるだろう。生まれ変わってきた連中は、悲しい過去や辛い事故があったとしても、今は元気で過ごしてる。

そういうもんさ。

--夏休みの夜釣り。アルバイトを拓真と分担して、少し余裕ができた海斗は堤防にきていた。いつもの釣竿、フェニックスとライチョウを携えて。

航よりも大きな魚を釣り上げる最初の目標にプラスして、瑠璃よりも大きなカンパチも釣らなきゃいけない。

海斗が釣りをしていると、堤防の先端、いつものように航がやってきた。

「海斗ー、今日は釣れてるかぁ?」

「全然」

海斗はニコニコと航の方へ振り向いて答えた。

「ま、今日の海はこれからだよな」

航は海斗の隣で竿を構えた。

立てかけてある釣竿フェニックスは、暗い夜の堤防で、海斗と航の背中を見つめていた。そして静かにキーンと共鳴音を立てた。

航が高周波音に気がついて振り返ると、フェニックスが白く光っているように見える。まるで航の方を見つめているようだった。

「海斗、この釣竿…。光るの?」

「光らないよ」

航の気のせいだろうか。フェニックスはぼうっと白く光っているように見える。

「なあ、海斗のフェニックス…あらためてよくよく見ると、昔俺が持っていた釣竿にそっくりな気がしてきた…」

「えっ?そうなの?」海斗は驚いた。今まで18年間生きてきて、航がフェニックスにそっくりな釣竿を使っている覚えはない。

そういえばフェニックスの特性を見出してくれたのは航だった。物知りな航に感心ばかりしていたが、フェニックスを使って試してもらったことはない。

というか、今の今までにフェニックスには海斗しか触れてこなかった。

「もしよかったら、フェニックスを使って試してみてよ」

海斗は航に言ったが、航はそれを断った。

「ああ、ありがとう。だけど…。うん…。自分の釣竿持ってきてるから、また今度でいいや…」

海斗と航は粘って釣りをしたが、結局何も釣れず、夜が深いうちに帰ることになった。

--夏休みは残りあと少し。

夏の海風が心地よい。海斗は自分でも可笑しくなるほど、オシャレに気を使っていた。

アルバイト代を入れた新しい財布をポケットにしまい、

靴紐を結び直して、

漁港を一望できる丘へ歩き出した。

著者コメント

全26章あります。

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