16:結衣
“瑠璃にあんなに言って強引に海斗の元に行かせたけど、もし自分だったら行けるかな?本当は可哀想なことしちゃったのかもしれない”
ハッキリと聞いた訳ではないが、きっと海斗なら瑠璃に優しくしてくれる。
結衣はそう信じていた。”ランチくらいなら必ず一緒に行ってくれるはずよね”
“私が同じように拓真くんをランチに誘ったらOKしてくれるかな?”
「拓真くん、さっきの試合すごいよかったよ。ねぇ、今度どこかお店でお昼を食べに行かない?夏休みだしいいでしょ?」
結衣は鏡の前で拓真に伝える言葉を考えてみた。
顔から火が出るほど恥ずかしく、全く言える自信がない。
“ムリ…。瑠璃と海斗くんの時とは難易度が全然違うじゃない。だって拓真くんは部活を掛け持ちで鬼のように忙しくて、私を家に入れてくれるほど親密な関係じゃないもの”
結衣はもう一度瑠璃の家に行って、今度は自分のことを相談しようと考えたが、いつも瑠璃の相談ばかり受け付けているせいで、なかなかに言い出しにくい。
しかも拓真を誘ういい方法なんて相談しても、瑠璃を困らせるだけのような気がして仕方がない。あれこれ考えてみても”やっぱり自分でなんとかしなくちゃ”という結論に辿り着いてしまう。
結衣にはもう一つ秘密兵器がある。
それは夏休みの宿題だ。
拓真はきっと、いや、絶対に宿題をやっていない。拓真は学校生活の中でもノートを取り忘れたり、教科書を忘れたり、宿題を忘れたりは日常茶飯事。
ほとんど部活のことしか考えていない。
そんな時に拓真が頼りにしているのが結衣なのだ。
真面目でしっかり者、しかも面倒見のいい結衣は拓真の宿題忘れや、あれこれをフォローしているのだ。海斗と瑠璃と湊は、拓真と結衣が学校でそんな接点を持っているとは気づいていない。
結衣はこの夏休みに拓真ともっと近づきたいのだった。
考えれば考えるほど結衣の頭の中はグルグルと巡って、その日はいつの間にか寝てしまった。
翌日も結衣はいろいろ考えてみたが、普段部活を頑張っている拓真に何かプレゼントを贈る、と言う考えにまとまった。
結衣はショッピングモールのスポーツ用品店に来ていた。
午前中から動き出していて、開店と同時に入店。もちろん一人で拓真へのプレゼントの最適解を導き出すつもりだ。
外の天気と同じく晴れ晴れと軽やかに店内を進んでいった。
首に巻けるタイプの冷感スポーツタオルを手に取った。夏の部活は暑いし、これはめちゃ助かるはず。
「拓真くん、部活頑張ってるから、これ使ってね」くらいの一言で好印象。とても自然体で渡せそう。
これは買っておかなくちゃ。
次に手にしたのが、普通のハンドタオルだった。部活で絶対使うし値段も重くないし、貰っても困らないはず。
毎日このハンドタオルを使う時に私のことを思い出してくれるかしら?
シンプルでスポーツブランドのロゴが入ったものからオレンジ色のタオルを手に取ったが微妙に迷う…。
拓真くんならコッチかな?結衣はオレンジを置いて、紺色の男子が使いやすそうなハンドタオルを選んだ。
“これは買いましょう”
いつかの試合のとき、拓真がスポーツドリンクの粉を入れたボトルに水を入れてシャカシャカと振っていたことを思い出した。
結衣はスポーツドリンクの粉を手に取っていた。
“これも気軽に渡せそうね”結衣はこの粉を溶かしたスポーツドリンクを飲む気にはならないが、ハンドタオルや冷感タオルと一緒に渡したら部活のセットという感じで、”組み合わせ的に可愛いかも”と考えていた。しかも実用的だ。
“これも買いましょう”
その後も、あ、これもいいかも、あ、これもいいかもと、ゼリーのタイプや、バーのタイプの個包装のお菓子をいくつもカゴに入れて「これ、差入れだからよかったら食べてね」という自然に渡せるコメントを考えながらカゴにお菓子を入れていた。
結局、結衣はカゴの中に入れた拓真へのプレゼント候補を、全て買っていた。
長文の手紙やカードのようなものを添えると重くなりそうなので、渡すときは”軽く”を心がけたい。
買ったものの中から何を渡そうかは決めきれずにいたが全部渡すのは違う。
あくまでも軽く「よかったら使ってね」程度にしたい。最適解なんていくら考えても導き出せないままだった。
プレゼントをきっかけに距離を縮めたい。
また頭がこんがらがってきた。
大量に買い込んだ拓真へのプレゼントたちを瑠璃とお揃いのエコバッグにつめて、「あー、もーわかんない、瑠璃に聞いてみよう。でも瑠璃に相談したら、倍返しで背中強めに押されそう…」と思いつつも、最後は瑠璃の家へと向かっていた。
著者コメント
全26章あります。コメント残していただけるととても励みになります。
是非、楽しんでいってもらえたらと思います。
応援よろしくお願いします。



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