5:湊と瑠璃
海斗はほとんど眠れないまま夏休みの一日目の朝を迎えてしまった。
昨晩瑠璃を家まで送って行ったが、あんなに泣いてる瑠璃を見たことがなかった。家まで送るとしたら、瑠璃は「もう大丈夫だから」とお礼を言っていたが、海斗には涙の理由がよく分からなかった。
結局、考え事が頭から離れなかった。心配で仕方がなかったので、朝ごはんを食べたあと様子を見に行くことにした。
海斗が漁港を一望できる丘の上までくると、容姿端麗な姿で軽やかにジョギングをする男が走ってきた。
「海斗!」
「おぉ、湊」
海斗も湊に気がついて返事をした。
湊は朝のジョギング中だったようで、ハーフパンツとランニングシューズ姿だった。湊は誰もが認めるイケメンで、学校でも女子に人気のアイドル的な存在だ。
「瑠璃んところ行くの?俺も行くよ」
湊はイケメンだが楽天的な性格でとにかく世話焼きなのが時々ウザい。
「お前ジョギング中じゃないのかよ?」
「うん、終わり終わりー。今日はもう十分走ったよ」
海斗はタオルで汗を拭く湊を見て”コイツ喋らなきゃホント、イケメンなのになあ”と思った。
海斗は湊と話しながら瑠璃の家に向かったが、昨晩の出来事については黙っていた。
瑠璃の様子が心配だった海斗はできれば湊と一緒ではなく一人で様子を見に来たかったのだが、瑠璃の家の前まできてしまった。
「おーい、瑠璃ー!海斗が来てるぞー!」
海斗の心配をよそに、湊が外から大声で瑠璃を呼んだ。
「まだ寝てんのかー!?起きてこいよー!」
「うっさい!もう起きてるしっ!」
家の中から瑠璃の声が聞こえた。思ったより元気っぽい瑠璃の声を聞いて海斗は少し安心した。まもなく昨日と同じ部屋着のままの姿で瑠璃がやってきた。
湊の家は山側、瑠璃の家は海の見える方。
二人の家の間を一本の細い道が通っている。二人は幼馴染だった。瑠璃が部屋から出てくると湊は「飲み物をとってくるから待っていて」と言い残し、家の中に行ってしまった。
「瑠璃、昨日は大丈夫だったか?」
「うん、もう平気。心配して来てくれたの?ありがと」とは言うものの、明らかに泣き腫らした目のままだった。
「海斗、昨日のペンダントなんだけど、しばらく私が預かっててもいい?」
「ああ。預かるって言うか、もともと瑠璃のなんだろう?別に構わないよ」
瑠璃はそれ以上何も言わずに、湊の家の前のベンチに腰掛けた。瑠璃はウミネコの声に目を向けた。
その綺麗な横顔は、昨日より少しだけ遠く見えた。海斗も何も言わず、瑠璃の隣に座って湊を待った。
「はいはいはーい、海斗はアクエリ、瑠璃はアップルねー」
湊は家の中から持ってきたドリンクを二人に手渡した。自分はシャカシャカとシェイカーを振りながら、プロテインドリンクを飲んでいた。
「なぁ、これから三人でどこか遊びに出かけようぜー」
湊が提案したが瑠璃は断った。
「ごめーん、私、今日はちょっと体調悪いから家でゆっくりする」
湊は瑠璃の顔を覗き込むと、泣き腫らした目を見て言った。
「おぉん?確かに何かちょっと体調悪そうだなぁ?」
そう言うと湊は瑠璃のおでこを手のひらで触って熱を確かめた。
「ちょっと、触んないでよ」
「うん、大丈夫、熱はないみたいだ」
瑠璃と湊のやりとりを見ていた海斗はモヤーっとした気持ちになった。この二人、いつも思うけど、幼馴染にしては距離が近いんだよなぁ。
そんな海斗の気持ちをよそに湊は尋ねた。
「海斗はどうする?どっか行く?」
湊に誘われたが海斗も断った。
「ごめん、ちょっと午後から用事があって、家に帰らなきゃいけないんだ」
「ふーん、残念。せっかく夏休みなんだから今度暇な日に都合つけてみんなで遊びに行こうぜ」
「あぁ、もちろん」
海斗は瑠璃が顔を出してくれて、予想よりも元気だったことに安心した瞬間、昨晩まともに眠れなかった睡魔が襲ってきてしまった。
これから遊びに出かける元気はなかったので、思わず湊の誘いを断ってしまった。
それからしばらく三人は他愛のない日常会話で談笑しあってから、それぞれの家に帰って行った。
著者コメント
全26章あります。コメント残していただけるととても励みになります。
是非、楽しんでいってもらえたらと思います。
応援よろしくお願いします。



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