夏の海風と記憶釣り(2:航)

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2:航

自宅前まで帰ってくると隣に住んでいる一つ歳上の航の姿が見えた。

「航くん、今帰り?」

「おう、今日も大漁だ。疲れたよ」

夕暮れの光が、航の腕の筋肉に反射した。

航は春から漁師になり、いつも朝早く起きて仕事に精を出していた。

「大漁だったならいいじゃん。俺明日から休みだからまた釣りとか行こうよ」

「そうだな、時間が空いたら声かけるよ」

海斗は桜の咲く四月生まれ、航とは誕生日がひと月違うだけなのに、航の学年は海斗の一つ上だ。

航は海斗より一足早く高校を卒業し、大学へは通わず漁師の道へと進んだのだった。

社会人一年目の航の夏は、忙しそうだった。

海斗も航も親が漁師で漁港の近くに住んでいる。もともと親戚のように、家族ぐるみの仕事として漁業をしてきたらしい。

海斗と航は小さな頃からいつも一緒で、兄弟のいない海斗は航のことを兄のように慕っていた。

海斗は魚の種類から魚釣りの方法まで、一から十まで、何もかもを航から教わってきた。

「そうだ、海斗、これこれ」

そうやって航が見せてきたのは珍しい形をしたブラクリが入ったパックだった。

ブラクリというのは釣りの仕掛けの一種で、オモリに針がついているもので、道糸の先につけるだけの簡単な仕掛けだ。針に餌をつけて海底に沈め、根魚を狙うためのものだ。

「なんだい、これ?珍しいブラクリだね」

「そうなんだよ。形は珍しいんだけどしっかりした作りで、これで百円なんだよ。安くてびっくりするだろ!?」

「えっ!?これで百円?やっすぅ〜」

航が見せたパックの中にはブラクリが四つ入っていた。一パック百円という価格は、かなりの破格だ。

「あげるよ。漁で朝が早いから夜釣りには一緒に行けないんだけど、それあげるから何か面白いものでも釣ってこいよ」

航はニコニコとブラクリを海斗に渡した。

潮の匂いを含んだ初夏の風が、二人の間を通り抜けた。

航にお礼を言って別れた海斗は早速釣りの準備を始めた。

海斗には夏休みの間にやりたいことがあった。それは、航が釣った魚よりも大きなサイズの魚を釣り上げ、魚拓を取ることだった。

海斗にとって、航の後ろ姿は小さな頃から、変わらずずっと目標だ。

何もかも航に教わってきた海斗にとって、大きなチャレンジだった。

著者コメント

全26章あります。コメント残していただけるととても励みになります。

是非、楽しんでいってもらえたらと思います。

応援よろしくお願いします。

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