10:湊の記憶
海斗と湊は漁港をあとにして、湊の家まで帰って来ていた。
夜遅い時間だ、湊の部屋へ音を立てずにそっとあがると、ペットボトルのスポーツドリンクを飲んで一息ついた。
「おい、湊、大丈夫かぁ?」
「うん。平気平気。ブレスレットある?」
「あるよ。ちゃんと持ってる」
不思議な力があるブレスレットだが、海斗にはただのシルバーアクセサリーにしか見えない。
「海斗さぁ、さっき俺がそれに触った瞬間なんだけど、一気に昔のビジョンが頭の中に浮かんできちゃったんだよね。それで、ちょっと怖いんだけど、呪いとかじゃないと思うんだ」
湊はブレスレットが危ないものではなく、大事なものだと考えているらしい。
「ちょっと待て、湊。うー…。うーん…。どうしようかなぁ…」
「なんだよ、気になるなぁ?」
湊は続きを話そうとしていたが迷っている海斗が気になる。
海斗は湊には伝えておいたほうがいいか、と考えた。
「あのな、三日前なんだけど…。ペンダントを釣り上げたんだよ。そのとき瑠璃が一緒にいて、それを瑠璃に渡したら…」そう話し始め、ペンダントの時の出来事を湊に話した。
「それ、さっきの俺と一緒じゃね?」
「うん。同じだと思う」
二人はますますブレスレットのことが怖くなった。
「海斗は平気だったの?」
「ああ。その時も瑠璃がペンダントのケースだっていうからパカっと開けたし、中身も触って綺麗な石だなって、手に取って見たんだよね。俺は何ともなかった」
どうして湊と瑠璃には前の持ち主のビジョンが見えるのか?海斗は手のひらを握ったり開いたりして、ブレスレットの感触を確かめていた。
湊は海斗の手の中のブレスレットを見ながら言った。
「海斗さぁ、なんかヤバかったら助けて欲しいんだけど、俺、もう一度ブレスレットに触ってみてもいい?」
「いいけど、やばかったらマジで取り上げるよ?いい?」
「うん。なんとなくなんだけど、大丈夫な気がするんだよね」
湊と向かい合って座っていた海斗は、床にそっとブレスレットを置いた。
「いいか、湊、ゆーっくり触れよ」
「わかってるって」
湊は目を瞑りながら手のひらを広げると、中指の先端で微かにブレスレットに触れた。
湊の指先がブレスレットに触れた瞬間、部屋の空気が固まった。
空気の音、呼吸の音さえ、遠くへ消えていく。
Tシャツ姿の湊の腕一面に、一気に鳥肌が広がるのが見えた。
海斗は冷静に様子を伺う。
ブレスレットを取り上げずに湊の表情に視線を移した。
「ふぅー、大丈夫だよ」湊は目を瞑ったまま呟いた。
熱い。指先から熱が伝わってくる。湊の瞼の裏には一気にビジョンが蘇ってきている。
どこか遠くから聞こえてくるあの声、潮の匂い、日焼けした腕、楽しげな笑い声。
「せっかくもらったんだから首からぶら下げてればいいじゃん」
「夏休みのウチに海にこれて良かったな!」
「くそっ!届かない!」
どれほど時間が経ったのかわからない。
無音の静けさのまま二人は硬直していた。
湊はそっと目を開いた。
「海斗、ありがとう。なんとなくわかった…」
湊の瞳に、涙とも汗ともつかない光が滲んでいた。
「大丈夫か?何がわかった?」
「あぁ…。前の持ち主の妹が海で溺れて死んだっぽい」
湊の答えは部屋中に重く響いた。
海斗は湊の目を見つめながら聞いた。
「具合は?どこも悪くなさそうか?」
「うん。大丈夫だ!」
そう言って、湊は指先で触れていたブレスレットを握りしめた。
「うん。大丈夫だな」
もう一度大丈夫と言って、ブレスレットを目の前にして見つめた。海斗も、大丈夫そうな様子に胸を撫で下ろした。
「それと…。瑠璃がいたっぽい」
「はぁ?瑠璃がいた?」
「たぶん。前の持ち主の妹が瑠璃とそっくりだった」
いったい湊はどんな記憶を見たのかわからない。
詳細を知りたくてブレスレットを海斗に触らせたり、もう一度湊に渡したり、強く念じながら触って見たり、いろいろ試したが詳しいことはそれっきりだった。けれど、何かが確かに二人の中で動き始めていた。
瑠璃が見せた一瞬の瞳の揺れを思い出しながら。
著者コメント
全26章あります。コメント残していただけるととても励みになります。
是非、楽しんでいってもらえたらと思います。
応援よろしくお願いします。



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