夏の海風と記憶釣り(7:夏休みの宿題)

スポンサーリンク

※当サイトはアフィリエイト広告を利用しています

7:夏休みの宿題

蒸し暑い猛暑の昼下がり、結衣はエアコンの効いた瑠璃の部屋にいた。

「私たちの夏休みの宿題ってほとんど問題集ばかりなんだから、早めに終わらせちゃったほうがいいわよ」

「わかってるんだけど、いつもギリギリになっちゃうのよねぇ」

瑠璃は浮かない表情で結衣を見つめた。

「だからこうして私が来たんでしょ?さっさとやっつけちゃいましょ」

結衣はテキパキと問題集を広げていた。

瑠璃は結衣の行動を見て、問題集が終わるまでは逃げられないと察すると、仕方なしに結衣の隣で同じく問題集を広げ始めた。

瑠璃が一問目に取り掛かろうとしたそのとき

「おーい、瑠璃ぃーー!!」

外から大きい声で瑠璃を呼ぶ声が聞こえる。

湊の大声だ。

エアコンのために締め切っているというのに、湊の大声は漁港まで届きそうだった。

「おーーい!瑠璃ーー!」

何回も呼んでくるので瑠璃は答えた。

「ちょっと待っててー!すぐ行くー!」

部屋の中から大きな声で返事をした。

結衣は細目で瑠璃をみた。

「アンタ達っていつもこうなの?LINEとかしないの?」

「湊って私が家にいると着信気が付かないの知ってるから叫んでくるのよね、昔っから」

“昔っからっていうけど、アンタ達もう高校三年生なんだから流石に恥ずかしくないの?”結衣はそう思ったが「ふーん」とだけ返事をして二人のやり取りに口を挟まなかった。

結衣は少しだけ口を尖らせて上目使いで「今日は宿題やるからダメだよ!」と瑠璃に釘を刺した。瑠璃は小さく頷くと一階へ降りて行った。

「何よーもーう。湊、うっさい!何ぃー?」

迷惑そうに要件を聞こうと窓を開けると、家に向かって再び叫び出しそうな湊と、ベンチに座っている海斗に気がついた。

「あっ!海斗!」

瑠璃は湊を無視して海斗に微笑むと手を振った。

海斗もそれに応じて「よう」と言って手を挙げた。

「俺達今からウチで宿題やるんだけどお前も一緒にやるか?」

湊は目の合った海斗と瑠璃の視線に気遣う様子もなく瑠璃に要件を伝えた。

「はぁ?二人も同じなの?今ウチに結衣が来てて、これから宿題やるところなんだけど」

「え?マジ?じゃ、ちょうどいいじゃーん!俺達も今から行くわ!海斗、先行ってて!俺、宿題とってくるからー!」

そう言い残すとドタバタと宿題をとりに家の中に入って行ってしまった。

「あのなぁ、湊!」

海斗は呼び止めようとしたが湊には聞こえていないようだった。

結衣も来てるって言ってるのに、急に行くって言っても無理だろ。そう思って瑠璃のほうを見ると「海斗ちょっと待っててー」と言い残し瑠璃も家の中に戻ってしまった。

瑠璃は慌てていた。

自分の部屋には結衣しか入れたことがない。幼馴染の湊ですら部屋には絶対に入らせていない。

「ねぇ、結衣、湊が一緒に宿題やるって言ってて、海斗と二人でこっち来そう」

「え?どゆこと?」

「移動移動!いったんリビングに移動!」

結衣は瑠璃に急かされて大慌てでリビングへ移動した。

まもなく湊が瑠璃の家の玄関のドアを開けた。

「瑠璃ー、宿題持って来たぞー」

「入っていいよー」

そう促されると、湊は「いいって」と海斗に言った。”本当にいいのかよ、邪魔しちゃ悪いだろ”と思ったが、いいならいいかと思いつつも、”結衣もいいのかな?”と半信半疑だった。

二人は瑠璃の家に上がりリビングへ行くと、結衣は問題集を広げてスタンバイ状態だった。

「よぅ、結衣、元気?」海斗は軽めに挨拶をした。

「元気よ」

結衣の表情はクールだったが微かに浮かんだ笑みを見て、不機嫌ではなさそうで安心した。四人は同じテーブルに集まり、問題集を広げた。

「湊はよく瑠璃の家に来るの?」

海斗が気になっていた疑問を結衣があっさりと尋ねた。

「うん。よく来るよ」

「ってか、湊ってウチの中勝手に入って来ちゃうから」

「勝手じゃないって、いつでも来てねっておばちゃんも言ってくれるじゃん!」

「そーゆーのはねぇ、社交辞令みたいなもので少しは遠慮するものなの!」

あー、始まった…。普段着なので忘れかけていたが、海斗と結衣はいつもの学校でのやりとりを思い出していた。

宿題の問題集を解き始めた四人。瑠璃の家のリビングは静かで、四人は意外と真面目にやっていた。結衣は一息つくとペンを置いた。

「私と瑠璃は今日で問題集全部終わらせるつもりなんだけど、せっかく四人いるんだしちょっと作戦会議しない?」

結衣は三人に持ちかけた。

「問題集って結局全員同じなんだから、四人でやる範囲を決めて、手分けして一気に終わらせちゃうのはどう?自分が解く問題以外は他の三人の答えを写せば、おし・まい!」

「いいね、それ!」

湊は賛同した。もちろん海斗と瑠璃も賛同である。

海斗は結衣のことを真面目な性格だと思っていたので、この作戦を結衣が持ちかけてきたのは意外だった。

結衣の指揮の元四分割された宿題。

一人あたり一時間程度だろう、本気を出せば終わりそうだ。

そこから四人は普段の授業ではみせない集中力でいっきに宿題をやっつけた。

それぞれの答えを写し切ると全員が無事に宿題を終わらせた。

「夏休み始まって二日目で宿題終わってる俺達、すごくない?」

「ほんとほんと、結衣のおかげだよ」

湊と海斗がそう言うと、結衣は髪をかきあげて微笑んだ。

「こんなの真面目に一人でなんて、やってられないわよ。湊くんと海斗くんが来てくれたからすごい効率が上がったわ。二人だけだったらキツかったかも。ね、瑠璃」

「そうね、私も二人だったらキツかったと思う」

瑠璃もほっとした様子だった。

湊は立ち上がると手を組んで伸びをした。すると、おもむろに棚の端に飾ってある写真を手に取り海斗に見せた。

「海斗、これ小さい頃の瑠璃だよ」

「ちょっと、勝手に見せないでよー」

湊は面白がって海斗に写真を渡した。家族写真の一番端には幼い頃の瑠璃が写っていた。

「へぇ。あー、面影あるねー。小さくて可愛いな」

海斗は写真を結衣に渡した。

「ホント、瑠璃って小さい頃から可愛いのよねー」

結衣は我が子を見るような優しい眼差しで写真の瑠璃を見つめた。

「もう、恥ずかしいからやめて」

瑠璃は照れながら結衣から写真を取り上げた。瑠璃は写真を棚に戻すと一枚のディスクを手に取った。

「ねぇねぇ、もっと面白いもの見せたげる」

瑠璃はそう言ってテレビをつけるとディスクを再生した。

映し出された映像は瑠璃の家のリビングにワイワイと人が集まってパーティーをしている様子だった。

「うわぁーん、うわぁーん。やーめぇーてーってゆったのにぃーー!うわぁーん。うわぁ〜ん」

おかっぱ頭の小さな男の子が必死で何か訴えながら、鼻水を垂らして大声で泣いていた。

「この鼻垂れボウヤ、湊だよー。きゃはははっ!うけるー!」

「おい、やめろよぉー!」

湊は顔を真っ赤にして言った。

「ふふ、まったく面影ないわね」

笑いながら口元を手で押さえる結衣が、横目で湊を見ながら言った。

鼻垂れボウヤが大きくなるとこんなにイケメンになるのかと海斗は驚いた。しかしすごいギャップだ。なるほどこりゃ面白いなと思った。

「湊、お前泣き虫だったんだな」

映像の中のおかっぱ湊は泣きながら母親に抱きついてうずくまってしまった。

「わかったわかった、勝手に写真を見せた俺が悪かったって、瑠璃、もう止めてくれよ。停止停止!もういいって!」

「湊ってうっさいよねー。小さい頃からうっさいわよねー」

瑠璃は動画を止めずにニヤニヤしながら湊をいじめていた。

「瑠璃、もうやめてあげなよ」そう言って結衣も困った湊を面白がっていた。

海斗は一人映像のほうを見続けていた。

すると端のほうで小さな瑠璃が母に何か話していた。

「あたしね、マーメイドだったからね、パパとママとずっと海のなかで遊べるの」

「それでね、それでね、こーんな大きなお魚と話せるのー」

「だから、もう寂しくないの」

小さい頃の瑠璃はとても可愛かった。

海斗は小さな瑠璃に見とれていた。

「はい、おしまい!」

自分の姿が映ったからか、瑠璃は動画を止めてしまった。

その日はお菓子パーティが開催され、夕方になると結衣が帰ると言うのでお開きとなった。

湊は「じゃ、またなっ」と言って別れを告げると5秒で帰宅した。

海斗と結衣は、瑠璃に見送られ二人で帰ることになった。

夕陽が今にも海に沈みそうだった。

「アイツらってあんな小さい頃から一緒にいたんだなー」

「腐れ縁ってヤツよね。恋人同士って感じとは違うわよね。幼馴染というより、まるで兄妹よね」

海斗は結衣の意見を聞いて、心の底から安心してしまった。

「湊の距離感がバグってるからときどき戸惑うよな」

「うん、それわかる。もう高校三年生だっていうのに、まるで妹扱いだもんね。あの子達、変なのよー」

海斗と結衣は湊と瑠璃のことを話しながら夕暮れの港町を自宅へと向かった。

「ところで、海斗くんって拓真くんに会ったりする?」

「たぶんすぐに会うと思うよ。俺と湊は拓真にとって殿堂入りの助っ人だから」

拓真は部活をいくつも掛け持ちしていて、試合のメンツが足りないと必ず海斗か湊に声をかけて、強引にエントリーしてしまうのだ。

「拓真くん部活で忙しいだろうから、終わった宿題みせてあげたほうがいいよね、きっと」

「間違いないね。アイツ絶対一問もやってないと思うよ。今度会ったときに聞いてみるよ」

「うん…」

海斗は拓真のことをずいぶん気にかけているなぁと思い、結衣のほうを見ると少し顔を赤らめて遠くを見ていた。

えー、まさかそういうことなの?と察したのだが、もしかしたら夕日のせいかもしれない。

ハッキリとは聞けなままそれぞれの家路へと分かれていった。

著者コメント

全26章あります。コメント残していただけるととても励みになります。

是非、楽しんでいってもらえたらと思います。

応援よろしくお願いします。

コメント

タイトルとURLをコピーしました