夏の海風と記憶釣り(24:父親)

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24:父親

海斗は航の家の長座卓に突っ伏して泣いた。

「うぅ…、8月20日は父さんの命日なんだよ…。うぅ…、うぅ…」

航は海斗の背中をさすった。

「漁師は…。間違いない…。お前の父さんだったんだな…」

海斗は、自分の父親は漁に出て嵐に巻き込まれて帰らなかったと、ずっとそう思って過ごしてきた。しかし事実は異なった。

海斗の父は勇敢で立派だった。拓真、結衣、湊、瑠璃を助けようとして、事故に巻き込まれてしまっただけだった。

海斗が思う父親はいつも慎重で安全第一、嵐に巻き込まれて死んでしまったのが信じられずにいたのだが、みんなの記憶を辿り、全てを理解した。

「海斗ごめんね。私が泳げなかったから…。海斗のお父さんが一番かわいそうなの…。ホントにごめんね」

瑠璃は大粒の涙を流しながら海斗を強く抱きしめた。

「いや、瑠璃…。いいんだよ。父さんは何も間違っていない。お前達を助けようとしたんだ。立派な人なんだ」

海斗は泣き崩れる瑠璃を優しく抱きしめて頭を撫でた。

「海斗くん、ごめん。私も謝りたい。海に来るならもっと安全に配慮した服装を選択すべきだったわ」

結衣は胸が詰まる想いで、やっとの想いで海斗に言葉を発した。

「違うって。仕方ないことなんだ。誰が悪いなんて、そんなことはないんだよ。だって、お前達みんな死んじまったんだから。父さんだけじゃないんだよ」

海斗は全ての事実を知って、寂しい気持ちになった。でも四人が前世の記憶を持って生まれ変わってきたのは、父さんのおかげなんだ。

「もし、お前達に前世の記憶が戻らなかったら、俺はずっと父さんのことを勘違いしたままだったかもしれない」

海斗は話し始めた。

「俺が生まれた時から父さんはいなかった。この漁港で漁をする人はたくさんいるけど、どうして父さんだけが海に飲み込まれなくちゃいけなかったのか。俺には母さんやみんながいるから平気だけど、それでもホントは父さんがいなくて、いつも寂しかったんだ」

「俺が海を自慢したくて、みんなを船に乗せた…。海斗、ホントにごめん…」拓真は俯いてしまった。

海斗は首を振った。

「違うよ、拓真。それも違う」

拓真が顔を上げる。

「父さんはさ、助けると決めた時点で、もう覚悟してたんだと思う。それに…、父さんが選んだんだ」

拓真は海斗の目をじっと見つめた。

「正直に言うとさ…。俺、海が好きなのに、海を許せないとも思っていたんだ。父さんを奪ったくせに、何もなかった顔してるような気がして…」

湊はしばらく黙っていたが、鼻をすん、と鳴らしてから顔を上げた。泣いてはいなかったが、目の奥が赤くなっていた。

「なぁ、海斗」海斗が湊を見ると、湊は少し困ったように笑った。

「正直さ…、重すぎて…どう言えばいいかわかんねぇ。でもさ…」

湊は一呼吸おいて、海斗の目をまっすぐ見た。

「俺たち、助けられた側なんだ。前世でも、今も」

湊は、軽い口調のままだが、言葉だけは真っ直ぐだった。

「だからさ、海斗の父さんが“かわいそう”とか“不運だった”って思われるのは、俺はちょっと違うと思う」

湊は一度だけ視線を落としたが、すぐにまた顔を上げた。

「命張って、人を助けに飛び込める人なんて、そういねぇよ。そんな父親だったら、普通に誇らしいじゃんか」湊は少し照れたように付け足した。

「ま、俺が言うと軽いかもだけどさ。でも本音だよ」

それから、いつもの調子で口角を上げた。

「だから、海斗が泣くのはすげぇわかる。でも、下向いたままはナシな。親父さん、絶対そんな顔見たくねぇって」

湊は海斗の隣へ来て、ぽんと海斗の肩を叩く。

「俺たち、みんなここにいる。今も。それで十分だろ?」

海斗は、湊のおかけで落ち着いた。

「父さんが最後にやったこと、全部、助けるための行動だったんだよな?」

海斗は、遺留品のアクセサリーを見た。

「だったら、俺がお前達のアクセサリーを海で釣り上げたのにも、意味がある気がする。俺はいつだって父さんに見守られている。そう、感じるんだ」

俺たちは前世とか、運命とか、不思議な事柄で繋がってる。

偶然のような、必然のような、そんな世界の中で生きている。

父さんが助けようとしたみんなは、今こうして手を繋いで、集うことができている。きっと、父さんが紡いでくれた現世なんだ。

海斗の心に引っかかっていた寂しさは、みんなの想いで癒された。

釣り上げたアクセサリーたちは、優しく輝いて、海斗の父と、海斗に感謝の気持ちを伝えようと、静かに輝いていた。

著者コメント

全26章あります。コメント残していただけるととても励みになります。

是非、楽しんでいってもらえたらと思います。

応援よろしくお願いします。

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