夏の海風と記憶釣り(14:指輪)

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14:指輪

カキーン!勢いよく飛ぶ白い玉。

グラウンドにワンバウンドして弾け飛ぶ玉をギリギリでキャッチして送球。ノーバウンドで球を返す拓真のフォームはお見事だった。

「よーし、次ぃー、海斗、行くぞー!」

カキーン!

再び勢いよく球は飛び出す。湊のノックを受ける海斗はフライをキャッチすると、拓真と同じようにノーバウンドで返球した。

拓真ほどではないのだが、海斗もそこそこに運動ができる。

先日の試合であと一歩のところで負けてしまった野球部。次の試合こそ野球に参加してもらうと、拓真のスケジュールを押さえにきたのだった。

拓真は自信満々に「俺が出るからにはみんなも本気出してもらう!」と言って、試合の日でもないのに野球部のメンバーをグラウンドに呼び集めた。

なんとしても拓真を次の試合に参加させたい。

野球部のメンバーは、誰一人かけることなく全員集まった。

と、そこまではいいのだが、なぜか海斗と湊も練習に呼び出されているのだ。

「なぁ、拓真。俺と湊は野球部じゃないから次の試合も出るかは、わからんぞ!」

そうやって何度言っても「わかってるって」というだけだ。

海斗と湊は冷たい視線で拓真をツーンと見つめた。

コイツ絶対わかってねーよ。二人は同じ気持ちだ。

「なんだよ。だって人数足りない時は仕方ないだろ」

うんうんと、拓真の後ろで野球部のみんなが頷いている。

人数を数えると、七人。拓真を入れると八人。どうやって数えても海斗か湊のどちらかはエントリー必須である。

海斗は湊の肩をポンと叩いて「よし、あとは任せたぞ」と言って笑顔で湊を見つめた。

「あぁ〜、わかってるよー、もう!」

みんなは安心して、わはははと笑いあった。

拓真、湊、海斗、この三人は困ったことにスポーツ万能なのだ。

能力値を十点満点で表せば、拓真が十点、湊が九点、海斗が八点と言ったところだろう。

野球部としても拓真と湊を迎え入れた九人チームが最強なのだ。

それなのに前回の試合は誰かさんがテニスに寝返ったことが原因で、湊と海斗を迎え入れた編成だった。

結果、ギリ負けたのである。

野球部の七人が拓真と湊に送る視線は熱かった。

海斗は時間があれば釣りをしたい。

昨日も真鯛を釣り上げた航の横で一人静かにリベンジを誓っている。家に帰って思ったのは二十センチのタカベ二十匹よりも、四十センチの真鯛一匹が欲しいのだ。いや、四十センチじゃダメだ。一番脂がのって美味しいサイズとか、そんなの関係ない。

大きいのが釣りたい。なんなら不味くて食べられなくてもいいから大きいサイズの魚が釣りたいのだ!もう本当なら野球なんてやってる場合じゃないのだ。

野球をやりながらも上の空の海斗だが、キッチリと朝練に付き合うあたりは野球部からの信頼も熱い。

この日も昼まで激しい朝練をこなした。野球部じゃないんだけど。

練習着のまま解散し、グラウンドの入り口までくると、そこにはエコバッグを腕にぶら下げた瑠璃がいた。

「おー、瑠璃ぃー、どーしたー?」

「どうしたじゃないでしょ!?湊がお弁当忘れたからって私が持ってくようにおばちゃんに頼まれちゃったのよ!」

ぷすぷすと煙を上げる勢いで怒っている。

暑い陽射しの中、日傘をさしながらお弁当を持ってきたのだ。

「え?俺母さんに今日はこのあとみんなでマック行くから昼はいらないって言ったんだけど…」

「はぁ!?じゃどうするのよ、このお弁当は!?」

瑠璃の怒りはさらに増していくようだった。

海斗と拓真は、二人のやりとりを見ながら「また始まった…」と、いつもの学校でのやりとりを思い出していた。

「とりあえず受け取りはするんだけど…。うーん、どうしようかなぁ…」

湊はそっと瑠璃からお弁当を受け取ると、もじもじと困った様子で悩み始めた。

お弁当とマックの両方を食べるつもりなのか。海斗と拓真は湊の様子を見ていた。

「海斗はこのあとどうする?マック行く?」

「俺はマックは行かない」

「じゃあこのお弁当代わりに食べてくれないか?」

「えー?まぁ、いいけど」海斗は笑いながらお弁当を受け取った。

「湊!せっかくおばちゃんが作ってくれたのに海斗にあげちゃうなんてヒドくない!?」

「まぁまぁ、湊が悪いわけじゃないみたいだし、海斗が美味しく食べてくれるならいいじゃないか」

拓真は怒った瑠璃をなだめた。

拓真は海斗の首に腕を回して「せっかく瑠璃が持ってきてくれたのに無駄にはできないもんなぁ?」と言って、海斗の顔を覗き込んだ。

「おぅ、そりゃそうだ。瑠璃のためにも美味しくいただきますよ。ありがと、瑠璃」

海斗に感謝されると瑠璃は「まぁいいけど」と言い、不満げな態度だったが納得しているようだった。

「俺達はもともと次の試合のミーティングを兼ねてマックに行く予定だから、あと頼むな!」

湊は海斗の背中をポンと叩いてそそくさと行ってしまった。

「じゃ、ごゆっくり。頑張れよー」拓真は海斗の耳元で誰にも聞こえないような小さな声で呟くと、肩に回した手を解いて湊に続いて行ってしまった。

「な!?何がだよ、全く…」

海斗は顔が赤くなったかもしれないと思って、焦って瑠璃のほうを見たが瑠璃は気がついていない様子だった。

瞬間、気持ちを切り替えて言った。

「アイツらって勝手だよな。瑠璃、お昼一緒に食べようぜ」

海斗は拓真に言われた通りに頑張った。

「うん。いいよ」

瑠璃はアッサリOKだった。

日傘をさして歩く瑠璃の横に並んで歩くのだが、何を話せばいいのか。

ふと瑠璃のほうを見るが日傘で表情は見えない。

白地にレモン柄のフレアワンピースは淡い夏の風をまとって歩くたびにひらりと揺れる。

軽快に歩く瑠璃の細い足首にかかる影は、シンプルな黒いサンダルを際立たせていた。ただ日傘を差して歩いているだけなのに、瑠璃の周りだけ透き通るように美しく感じてしまう。日傘の角度が傾くと、うっすらと微笑んでいる表情が確認できて、少しだけホッとした。

可愛らしい目元が光を受けて、まるで水面を覗きこんだときのように澄んでいた。

二人きりになったと思うと喉がカラカラ。緊張してしまう。けど、悟られないようにしないと。

海斗の頭の中は今までにないほどに何が何だかわからない状態だった。

「お昼ごはんなんだけど、瑠璃は何食べたい?」

「お弁当のおにぎり一個くれればいいよー、私は」

「そっか、じゃどこかその辺の公園で食べるか?」

「えー、暑いから嫌。海斗のウチで食べよ」

「え?俺んち?まぁいいけど…」

咄嗟に返事を返したが、”待てよ。いやいや、よくない、よくない。

全然よくない。

昨日航くんと釣りしたあと部屋の掃除も何もしてない”釣り道具だらけでぐちゃぐちゃの部屋でおにぎりなんか食べても美味しくない。

魚臭いかもしれないし海臭いかもしれない。”アレ?昨日のタカベって冷凍庫にしまったよな?うん、大丈夫、それだけはちゃんと処理したはず。っていうか、そうじゃなくて、部屋に入る前に片付ける時間をもらうか、別の場所を考えるか。でもさっきウチでいいって言っちゃったし。あー、もうダメだ、わけわからん。なんでウチなんだ?”パニック状態の海斗は瑠璃を連れたまま家まで帰ってきてしまった。

家に上がりリビングを見ると昨日とは打って変わってピカピカに掃除が行き届いていた。

海斗の母が仕事へ出る前に掃除を終わらせてあったのだ。

わぁー、ラッキー、母さんありがとう、リビングが最適解だったわぁ〜。海斗はエアコンのスイッチを入れてから、瑠璃をリビングのダイニングテーブルに座らせ、冷蔵庫で冷やしてあったお茶をグラスに注いで提供した。

「ありがと。あー、お腹すいた」

瑠璃は椅子に腰掛けて落ち着いた様子で柔らかく微笑んでいた。

日傘の影の下で見せた大人びた微笑みとはまた違って、リラックスした雰囲気だった。お茶を飲んだ瑠璃は歩き疲れた様子で、ふぅと一息ついた。

瑠璃はお弁当のおにぎりをテーブルに出したが何か準備している海斗の様子を見て、手をつけずに待っていた。

海斗がお昼に食べようとしていたアジフライを冷蔵庫から取り出してレンジで温めた。それに付け合わせを小鉢によそい、お湯を入れるだけのインスタントの味噌汁を作ると、温め終わったアジフライをテーブルに並べた。

即席だがなかなかいいランチが準備できた。

「待たせたな、さぁ、食べようぜ」

「うん。いただきまーす」

瑠璃はニコニコと美味しそうにアジフライも味噌汁も食べてくれた。もぐもぐと元気よく食べてくれて嬉しい。

幸せな気分で海斗も思わずニコニコとしていた。

「美味しいね。湊のウチのおにぎりも美味しいね」

「そうだな。こんな大きなサイズのおにぎり5個もあったけど、もともと瑠璃のぶんも入ってたんじゃね?」

「そうかもー。でもわかんない。湊、食いしん坊お化けだから、デカおにぎり5個くらい食べるかも」きゃはは、と瑠璃は笑って言った。

「今日は湊とご飯食べるつもりだったのか?」

「ううん、みんなが野球してるの見たら帰ろうと思ってたんだけど、着いたら終わっちゃってたのよね」

瑠璃はもう一個食べてもいい?と聞きながら二つ目のアジフライに手を伸ばした。

「今度の試合は多分拓真と湊が出ると思うよ。前回負けちゃったから、次は勝ちにいくって、みんな気合い入ってたよ」

「えー!?海斗は出ないの?海斗が出るなら応援に行くのに!」

ん?んー?俺が出るなら応援に行くって言ったのか、いま?

「ま、俺が出るより拓真と湊が出たほうが勝てるっしょ?」

「そんなことないよー、この前の試合、海斗のヒットカッコよかったもん。二番目の塁まで進んで凄かったよー」

あれ?なんで知ってるんだ?俺のツーベースヒットを…。

え?

カッコよかったって言った?

「瑠璃達、結衣とかと一緒に拓真のテニスの応援にいたのになんで野球の試合のこと知ってるの?」

「みんなテニスの応援に行くってはしゃいでたけど、私は一人だけ野球の応援をしてたの。終わったあとすぐに結衣達と合流しただけ」

そうだったのか、瑠璃だけ野球を応援してたのか…。

な、な、なんでやねん!?

「なんで瑠璃だけ野球だったの?」

今日の海斗は自分でも驚くほど頑張っている。冷静に聞いてみた。

「海斗がホームラン打つと思ったから…」

「ははは、ツーベースヒットまでだったなぁ」

瑠璃は小さな声ですぐに言い返した。

「ううん、ツーベースヒット…。カッコよかった」

すると瑠璃は耳を真っ赤にして箸をおいた。

「ごちそうさまっ!」

瑠璃は大きな声でごちそうさまを言うと機敏な動きで食器を片付け始めた。

海斗の顔は真っ赤っかになっていて頭からは湯気が出ていたかもしれない。味も何も感じない状態で空中を見つめてパクパクとアジフライを噛み砕いていた。

お昼を用意してくれたお礼だと言って食器を全て洗って片付けた瑠璃は、今日は忙しいと言って帰ろうとした。

「あっ!瑠璃!ちょっと待って!」

海斗は玄関でサンダルを履いて帰ろうとする瑠璃を呼び止めた。

自分の部屋から昨晩釣り上げた指輪のケースを持ってきて瑠璃の前で開け、中身を見せた。

瑠璃なら絶対に何か気づくハズだ。

「この指輪、何かわかる?」

瑠璃は指輪を見た瞬間、息を呑んだ。

視線が釘付けになり、ほんの一瞬だけ言葉を失ったように動きが硬直する。

「これ、ママの指輪…」

著者コメント

全26章あります。コメント残していただけるととても励みになります。

是非、楽しんでいってもらえたらと思います。

応援よろしくお願いします。

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