6:瑠璃の夢
「はははっ!気にしすぎだろ?だってあいつらは幼馴染なんだから、それくらい普通なんじゃねーの?まぁ、そんなもんじゃねーの?」
航は釣竿を海に振り抜くとルアーを泳がせた。
「そうかなぁ?」
気軽におでこに手を当てられる関係性ってなんだろうと、航に聞いてみたのである。
海斗はライチョウを使って同じくルアーを泳がせた。夜の海、海斗と航はいつもの釣り座にいた。
「もしかしたら瑠璃と湊って実は付き合ってるのかな?」
「うーん、わかんないけど、二人とも昔っからあんな感じじゃなかった?」
波が高く、堤防に打ち付ける音がうるさい。
「で、海斗、二人がもし付き合ってるとしたら何なん…」
航がそう言いかけた時、竿先に明確な生体反応があった。航の竿はグンと引っ張られる力を感じた。
「航くん来た!?」
海斗が航の方を見た瞬間、海斗も同じようにラインをグンと引き込まれた。
『同時かよっ!』
二人は目を見合わせると、竿の角度を起こしてリールを巻き始めた。ヒットした魚はグングンと海の中にラインを引き込んでいた。
一方、瑠璃の部屋では、窓の外を眺めれば、昨日と打って変わって荒れた海。しかし、瑠璃は窓を開けて堤防を見ることはなかった。
堤防の先で航と海斗が自分の話をしていることなんて思ってもいない。
昨晩泣き崩れてから、体調が優れなかった。午前中に海斗と湊と一緒にいたが頭がぼーっとしたような感覚がずっと続いていた。二人と分かれてからはずっと部屋の中でうたた寝をしたりスマホをいじったりして、ダラダラと過ごしていた。
「いったいあの時の感覚はなんだったんだろう…?」
ふぅとため息をついた瑠璃はペンダントを見つめて考えていた。
過去遡って思い出してみても、買ったり貰ったりしたことがないペンダントなのに、なぜか強く惹かれてしまう。
絶対に私の物だっていう感覚がある。
これを誰かに渡すことなんて考えられない。絶対に私の物。
瑠璃は昨晩帰って来て机の上にペンダントを置いたまま、触れずにいた。
触れたらまた昨日みたいに頭の中がぐちゃぐちゃになりそうで怖かった。
机の椅子に腰掛け、頬杖をついたままペンダントを見つめていると不思議と優しい気持ちに落ち着いて来た。
瑠璃はターコイズが好きだ。煌びやかな宝石とは違って、自然の中から採れる天然の美しいブルーが大好きだった。
瑠璃はペットボトルの水を手に取ると、キャップを開けて一口飲んだ。喉を伝う水の音が部屋に静かに響く。
部屋の明かりは瑠璃の頬のラインと首筋を淡く照らしていた。どこか柔らかい瑠璃の無意識な仕草は、落ち着いていて綺麗だった。
瑠璃はペンダントを見つめ直し、小さく息をついた。
昨晩海から釣り上げられたとは思えないほど綺麗で美しいターコイズを見ていると、もう一度触れてみようという感覚になってきた。
「流石に首にかけるのは抵抗があるけど少し触るくらいなら大丈夫かな…」
瑠璃は細い指先でそっとトップのターコイズに触れてみた。
ターコイズのペンダントトップは暖かく、瑠璃は指先から全身の毛が逆立つような感覚に、ブルっとした。だが、恐れずにそのまま指を触れていた。
じんわりと指先から体が温まっているような感覚を覚えた瑠璃は、そのまま目を閉じた。
瞼の裏には昨日脳裏によぎった溺れる感覚とは異なり、優しい海の雰囲気を感じた。
安心した瑠璃は目を開いてペンダントを握りしめた。握りしめたペンダントから何かを感じて、また目を閉じた。
瑠璃はペンダントを握りしめたまま、机に突っ伏して寝てしまった。
「ねぇ、どう?似合う?」
「これは、ケースにしまっておくのー」
「わぁ、海サイコー、風、気持ちいいー」
「きゃあっ!」
「ダメ、私泳げない…」
「ママ、ごめん、私沈んじゃう…」
外から、潮騒の音が微かに聞こえた。まるで誰かが呼んでいるように。
無防備な寝顔の瑠璃。
頬には、一筋の涙が伝っていた。
著者コメント
全26章あります。コメント残していただけるととても励みになります。
是非、楽しんでいってもらえたらと思います。
応援よろしくお願いします。



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