22:ネクタイピン
海斗は壁にそっと竿を立てかけた。ネクタイピンは糸の先にぶら下がったままだ。
航は全員分の冷たい麦茶を大きな急須に用意し、それぞれの湯呑みに注いで配った。
「で、お前達、なんでそんなテンション下がっちゃったの?そのネクタイピン何かヤバいの?」
航が糸の先についたネクタイピンを見ながら聞いた。
「航くん、そのネクタイピンには絶対に触らないでね。拓真も気をつけて」
海斗は二人にネクタイピンを触らないように注意した。
それからゆっくりと、海斗と結衣と湊と瑠璃は今ある情報の全てを、航と拓真に伝えた。
この夏の不思議な出来事を、全員がそれぞれの想いで解釈することとなった…。
「これは私の指輪よ」
結衣は自分のポーチから指輪を取り出して、そっと指に嵌めた。
「もう今は触っても、嵌めても何もおこらない。むしろ、嵌めているとホッとした気持ちになるくらい…」
瑠璃もバッグからペンダントを出して首から下げた。
「結衣も持ってきてたんだね。私もペンダント、持ってきてたんだ。結衣の言う通りで今は触っても平気だし、首から下げても全然平気よ」
首から下げたペンダントは、結衣の指輪と見つめ合うようにキラキラとしていた。
「実は俺も肌身離さず持ってるんだ」
湊はそう言ってポケットから取り出したブレスレットを無造作に手首につけた。
拓真はごくりと唾を飲み込んだ。
「あのさぁ、お前達のアクセサリーがすごい勢いで俺にアピールしてきてる…」
拓真はただならぬ雰囲気を感じ取っているようだった。
「俺は何もわからん」「俺もだ」
航と海斗は別に何も感じてない様子だった。
「拓真、ゆっくりでいいんだけど、ネクタイピンに触ってみてよ」
海斗は拓真に言った。
「うん。さっきからすごい耳鳴りがしてきてる。ネクタイピン…。多分俺だよ…。俺のだと思う…」
拓真は恐る恐る、ゆっくりとネクタイピンに指先を差し伸べた。
拓真の指先がネクタイピンに触れた瞬間、バチン!と青白い火花が飛び散ったように見えた。
「あ…。あ…。あぁ…」
拓真はその大きな体を小刻みに震わせながら、ネクタイピンから記憶の情報を吸い上げているようだった。
「拓真が父親で間違いない…。ってことだよな…」
航が拓真にそう問いかけると、拓真は小さくうなづいた。
拓真は身体を震わせながら呟いた。
「ごめん…。みんな…。俺の…。せいで…」
拓真は俯きながら大粒の涙をポタポタと長座卓の上に落とした。
「はぁ…。はぁ…。はぁ…。ごめん、みんな。やっぱりこのネクタイピン俺のだったわ…。はぁ…。はぁ…」
拓真は息を切らしながら必死でみんなに声を発した。
「拓真くん、無理しなくていいから!」
結衣が拓真に寄り添った。結衣に背中を撫でられると、次第に拓真は落ち着いた。
口から垂れてしまったよだれを腕でグイっと拭うと、かろうじて正気を取り戻した拓真が言った。
「指輪、ペンダント、ブレスレット…。それから、俺のネクタイピン。全部覚えてる…。全部ウチの家族のものだよ…」
拓真は瞳をグッと閉じて歯を食いしばった。
「うん…。もう大丈夫…」
ただならぬ拓真の様子を一同は瞬きもせずに見つめていた。
そう、記憶が蘇る瞬間だけはとてつもない衝撃が走ることを知っていた。
結衣は拓真を強く抱きしめた。
「拓真くん、無理しないで!大丈夫だから!」
拓真はハァハァと荒い息を立てながら答えた。
「これ、きついな。この衝撃。でも全部思い出したよ…。手を繋いで…」
拓真は冷静になり結衣と手を握った。結衣は反対の手を瑠璃と握り、瑠璃は湊と、湊は拓真と…。ぐるりと四人で輪になるように繋いだ。
「全部…じゃない。でも、核心は思い出した」拓真が問いかけると瑠璃と湊と結衣はコクリとうなづいた。海斗と航が見守る中、拓真から全てが語られた…。
著者コメント
全26章あります。コメント残していただけるととても励みになります。
是非、楽しんでいってもらえたらと思います。
応援よろしくお願いします。



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