15:誘えない
今日は忙しい。話があるからと結衣を呼び出していたのは瑠璃だった。
前世のことが頭から離れず、毎夜のごとく夢にまで見るようになってしまった。
そのことを結衣に相談したかった。
“私と海斗と湊の三人の秘密ってことにしていたけど、結衣にだけは話したい”
瑠璃は何か悩みがあると、いつも結衣を頼りにしていた。
結衣がテイクアウトのフラペチーノを二つ持ってやってくると、いつものように瑠璃の部屋に二人篭って、話を始めた。
瑠璃はテーブルの上にペンダントを置いて、その横にさっき海斗から預かった指輪も置いた。
結衣にペンダントを見せながら、この夏の出来事を全て結衣に話した。
「じゃあ湊くんは瑠璃のお兄ちゃんってことなのね。納得」
結衣は瑠璃の話を何も疑うことなく聞いてくれた。結衣はフラペチーノの入ったドリンクのストローに、そっと口をつけたあと答えた。
「アンタ達って昔から兄妹みたいで、何も違和感がないわ」
ホッとした瑠璃は指輪のことも話した。
「しかもさっき海斗から預かってきたこの指輪なんだけど…。これが前のママの指輪で、私のペンダントとお揃いなの」
結衣はテーブルの上のペンダントと指輪を交互に見ながら、胸の中に支える何かを感じざるを得なかった。
「なんだか懐かしいような…。見たことがあるような気がしてくるわね。ホントに不思議なことがあるものね…」
長い髪を耳にかけながら、二つのアクセサリー見つめる結衣。
アクセサリーが放つ強い力を感じていた。吸い込まれそうなほどに魅力的な二つのアクセサリーを見つめていると、頭がクラクラとしてくるような感じがして、つい目を逸らした。
瑠璃は言った。
「ごめんね、結衣。変な話しちゃって。でもどうして前世のことを思い出しちゃうのか、不思議でしょうがないの」
困ったように結衣に打ち明けた。
「私だって不思議に思うけど、そういう人もいるってことよね。きっと世の中の人のほとんどが誰かの生まれ変わりなのよ、きっと」
結衣と瑠璃は同じことを考えていた。
湊は兄の生まれ変わりだった。きっと結衣も誰かの生まれ変わり。海斗も拓真もみんな、誰かの生まれ変わり。
そんなことをぼんやり考えていると結衣は言った。
「前世の瑠璃が溺れて死んじゃったのは本当に可哀想だと思うわ。その話しを聞くと私も胸が締め付けられそう…。でも私は今の瑠璃のことが好きだから、前世のことはあまり気にしないでほしい」
結衣は母親のような温かい眼差しで、瑠璃の潤んだ瞳を見つめた。
「うん。ありがと」
瑠璃は結衣の言葉で気持ちが楽になるのを感じた。
やっぱり結衣に話して正解だった。
「もう一つ不思議なのは、海斗くんよね。なんでこんなに幾つも変なもの、釣り上げるのかしら?」
「わかんない。さっき指輪を渡されたときは、昨日釣り上げたって言ってた」
今日の出来事、お昼に海斗とランチを共にしたことも、丸々と結衣に話した。
「え?さっきまで海斗くんとランチしてたってこと?」
結衣は驚いた。
今日のお昼の出来事なんて結衣は聞いていない。初耳である。
話題はアクセサリーではなく、ランチの話しに脱線していた。
「え〜、それで結局また約束できずに帰ってきちゃったの?」
「うぅー、だってぇ〜」
瑠璃はテーブルに突っ伏して言った。
二人のフラペチーノはもうすっかり空っぽだった。
「ほら、また堤防の先に誰か来てるよ。海斗くんじゃない?」
そう言われて窓の外を見ると、間違いなく海斗だった。
「うん。海斗だ!」
瑠璃は即答した。
「なんであの小さな人影が海斗くんだってわかるの?目ぇ、良すぎ!」
結衣はニコッと微笑んだ。
「何でもいいじゃん、夏休みなんだから。”どこか二人で出かけない?”って言えばいいだけよ」
結衣は最もなことを瑠璃に伝えていた。
そもそも海斗と瑠璃の間柄なら、買い物に行くにしても遊びに行くにしても、ノーリスクで気軽に言えるハズだと、結衣は考えているようだ。
「そうは言ってもねぇ…」
瑠璃は頭を抱えながら、どうしたものかと悩んでいた。
「はいはい、ぐちゃぐちゃ考えてもしょうがないでしょ」
そう言って結衣は仕切り始めた。
「私がセリフを決めてあげる。今からその通りに伝えてきなさい」
髪の毛がぐちゃぐちゃになった瑠璃は、不安そうな顔で結衣を見つめた。
「うーん、そうね…。こうしましょ。”海斗、さっきはアジフライありがと。ねぇ、今度はどこかお店でお昼を食べてみない?夏休みだし暇でしょ?”うん。完璧ね」
“完璧なの?わからない。言える自信ない…”瑠璃は困惑した。
「結衣…、やっぱム…」「はい!言ってごらん!」
“うっ…。結衣のこの圧は言うまで終わらないヤツ…”
「さっきは、アジ、フライ、ありがと…」
「今度はどこかお店で!はいっ!」「こんど、は、どこか、お店、で…」
「お昼を食べてみない!?はいっ!」「お昼を…。食べてみない?」
瑠璃は結衣の復唱する通り言った。
「はい、これで完璧ね。じゃ堤防に行きましょ」
「結衣、ちょっと待って、やっぱり無理…」瑠璃の小さな声は、結衣には全く聞こえていない。
「はい!行くよ!」結衣は帰り支度をして行ってしまった。
瑠璃は仕方なく結衣の後に続いて外に出た。
結衣が帰る途中までの道すがら、例の呪文を二、三回繰り返して練習させられた瑠璃。
本当に言えるのだろうか?
ここまで来てしまっては、もう言いに行かざるを得ないだろう…。
「瑠璃。絶対大丈夫だから。言っておいで。私ここで帰るけど、どうなったか後でちゃんと聞くから、しっかりね!」
漁港方面、堤防に向かうように背中をポンと押された。少しだけ歩いて振り返ると結衣は手を振って見送っていた。
「頑張ってねー!」
“頑張ってじゃないのよね。恥ずい。ムリ”
瑠璃は頭真っ白状態のまま海斗のいる堤防に向かった。
堤防の先のほうへ向かうとさっきまでは海斗一人だったはずの人影が二人なっていた。
瑠璃はその場で足を止めて人影をよく観察すると、それは航だった。
結衣と二人で堤防に向かうまでの間に航が来て合流したようだった。
「やっぱ、無理…」
瑠璃は海斗と航に気が付かれないうちに引き返してしまった。
著者コメント
全26章あります。コメント残していただけるととても励みになります。
是非、楽しんでいってもらえたらと思います。
応援よろしくお願いします。



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